研究課題
これまで申請者らは、大腸がんLoVo細胞や肺がんA549細胞に白金制がん剤であるシスプラチンを長期暴露すると、制がん剤耐性を獲得すると共に、EMTを誘導することを見出した。そしてさらなる研究の結果、シスプラチンはTGF-bシグナルの活性化を介してEMTを誘導していることを明らかにした。そこで本申請では、シスプラチンによるTGF-bシグナル活性化の解明を目標にしている。本年は、シスプラチンがTGF-bの分泌を促進することでTGF-bシグナルを活性化している可能性について検証した。まずTGF-bのC末端にHisタグとMycタグを付加し、それを発現するレンチウイルスを作成した。続いてこのレンチウイルスをLoVo細胞およびA549細胞に感染させ、TGF-b-Myc-Hisを恒常的に発現する細胞を樹立した。次にTGF-b-Myc-Hisが培地に分泌されるのかを検証するため、培地中に含まれるTGF-b-Myc-Hisをニッケルカラムで回収し、抗Myc抗体を用いたウェスタンブロッティングで確認した。さらに、培地中に分泌されたTGF-b-Myc-Hisが受容体に結合してEMTを誘導できる活性を保持しているのかを検討するため、LoVo/TGF-b-Myc-His細胞の培養液を80℃でインキュベーション後、そのままLoVo細胞やA549細胞に添加した。その結果、LoVo/TGF-b-Myc-His細胞の培養液を添加して2日後には、上皮マーカーであるE-cadherinの発現減少と、間葉マーカーであるN-cadherinの発現上昇が見られ、申請者らが作成したTGF-b-Myc-Hisが機能していることが示された。以上の結果より本年度は、培地中のTGF-bの分泌を簡便に検出できる系の構築に成功した。
3: やや遅れている
本年度も、コロナ渦の影響で研究が予定通り進まなかった。
これまで培地中のTGF-bを定量するためにはELISAを用いる必要があり、費用効果が良くなかった。しかしR3年度に作成したLoVo/TGF-b-Myc-His細胞やA549/TF-b-Myc-His細胞を用いれば、培地中のTGF-bの検出が抗Myc抗体を用いたウェスタンブロッティングで検出が可能であり、またHisタグも付加しているためニッケルカラムで回収することも可能である。R4年度は、本細胞システムを用いて、シスプラチンがTGF-bの分泌を促進するのか?またその場合、そのメカニズムを探る計画である。
R2年度に購入した試薬が残っており、また、所属研究室にある材料で実験を遂行できたため、R3年度は使用額が少なくなった。R4年度は、R3年度に実施した研究を検証するため、ELISAなど高額な試薬を購入し、また7月にはアイルランドへの海外学会への出張も計画している。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
Molecular and Cellular Endocrinology
巻: 534 ページ: 111371~111371
10.1016/j.mce.2021.111371
The Journal of Antibiotics
巻: 74 ページ: 706~716
10.1038/s41429-021-00453-y
BBA Advances
巻: 1 ページ: 100008