コチレニンA(1)は、Cladosporium属の糸状菌から単離、構造決定されたジテルペン配糖体で、ヒト急性白血病細胞HL-60に対し分化誘導活性を有し、1とインターフェロンαとの併用で、卵巣がん細胞を移植したマウスの60%以上が完全に治癒したうえ、副作用は観察されなかった。1は、真核細胞生物に普遍的に存在する14-3-3タンパク質およびリン酸化タンパク質と三者会合体を形成し、さらに14-3-3タンパク質と2対2の会合体を形成することから、1は細胞内のシグナル伝達に関与していると考えられ、疾病解明のためのツールになることが期待されている。 研究代表者はこれまで、コチレニンAのA環部セグメントおよびC環部セグメントの合成に成功している。続いて、調製したこれら2つのセグメントを、パラジウム触媒を用いるクロスカップリングで連結したのち、閉環して8員環を形成し、コチレニンAのABC環部骨格の構築に成功したものの、生成物は不安定で、その後の化学変換が困難であった。そこで新たに、A環部に側鎖を導入したのちに同一フラスコ内でC環部と連結させる、三成分連結反応を検討した。現在までのところ、モデル化合物を用い、収率は中程度であるものの、ジアステレオ選択的に炭素-炭素結合形成反応が進行することを確認した。 また、従来のC環部セグメントの合成は工程数が多く、大量供給にやや難点があることから、より簡便な合成ルートの開発を目指し、リパーゼを用いたラセミ体アルコールの速度論的分割を行い、ほぼ完全な鏡像体過剰率のC環部セグメントを用いて、上記の三成分連結反応を検討した。
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