M-フィコリン基質結合ドメイン(FD1)とC反応性タンパク質(CRP)の可逆的凝集活性の分子機構の解明を目指し、本年度は電子顕微鏡による複合体解析および凝集活性のpH依存性の解析を行った。過去に実施した電子顕微鏡解析では、観察のための染色処理に起因する凝集溶解が起こったものと予想され、明確な複合体の観測が出来ていなかった。そこで、本年度は複合体形成後にタンパク質分子間を架橋することを試みた。架橋処理後の複合体試料の電子顕微鏡観察を行ったところ、一部でFD1-CRP複合体と予想される凝集体が観察出来たが、架橋物質および条件等の最適化が必要と考えられた。FD1-CRPの凝集形成は、pH 6-8の範囲で大きく変化し、pH低下に伴い凝集活性が上昇することが昨年度までの研究で明らかとなっていたため、pH依存に関わると予想されるHis残基について検討を行った。凝集形成は、CRPの基質結合部位を介していることが昨年度までの研究で明らかとなっている。CRPにはHisが2残基存在するが、いずれもCRPの基質結合部位とは離れた部位に存在することから、CRPのHis残基はpH依存性への関与はないと予想し、FD1のHis残基に注目した。FD1には6残基のHisが存在するが、そのうちHis251、284および297は、FD1の基質結合活性に関与することが過去の研究により明らかとなっている。そこでFD1のHisをそれぞれAlaに置換した6種類の変異体FD1について、CRPとの凝集活性を調べたところ、H251A、H284AおよびH297Aにおいて、凝集活性は弱いながらあるものの、pH依存性の著しい低下が観測された。一方、各変異体は単独でも経時的に自己凝集することがあるため、今後再現性の確認が必要であると考えられた。
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