研究課題/領域番号 |
20K05746
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
坂本 清志 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (30335228)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | GABA(A)受容体 / リガンド指向性化学 / タンパク質ラベル化 / バイオセンサー / スクリーニング / 蛍光イメージング / 脳化学 / 神経化学 |
研究実績の概要 |
γ-アミノ酪酸 (GABA) は主要神経伝達物質の一つであり、脳内における抑制性伝達を担っている。そのイオンチャネル型受容体である GABA(A) 受容体は、中枢神経系における速い抑制性神経伝達の大部分を行うことが知られている。GABA(A) 受容体は、神経伝達制御において必須であり、その異常は不安障害や睡眠障害、うつ病や統合失調症など多くの精神疾患に関与することから、様々な治療法や新規向精神薬開発の標的となっている。しかしながら、その複雑なサブユニット構成から理論的薬剤設計やハイスループットなスクリーニング系の構築は未だ困難な状況にある。従って、実際の脳組織や脳内における内存性GABA(A)受容体の発現分布や機能、薬剤応答性を詳細かつ系統的に分析可能なアッセイ系の開発は、様々な神経疾患治療や複雑な脳機能の分子レベルでの解明において多大な貢献を果たすことが期待される。本申請課題では、生きた脳や初代培養神経細胞おける内存性 GABA(A) 型イオンチャネル受容体に対する特異的化学標識を基軸とする新規の薬剤アッセイおよびスクリーニング系を構築することを第一段階の目的とする。具体的には、当研究室で独自に開発したリガンド指向性アシルイミダゾール (LDAI) 化学手法を用い、生きたマウス脳内や脳組織上に存在する内存性 GABA(A) 受容体のリガンド結合部位近傍に蛍光色素や機能性原子団を位置特異的に導入する。これにより、リガンド認識特性や受容体機能を保持したまま内存性 GABA(A) 受容体の高感度蛍光バイオセンサー化やイメージングを試みる。本手法では、複合化する蛍光プローブや機能性分子が比較的小サイズであることに加えて、受容体タンパク質へのアミノ酸変異導入やタグ配列の挿入を必要としないため受容体機能を損なうことなく内存性タンパク質の化学修飾を実行することが可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画の第一段階として、GABA(A) 受容体を特異的に認識し、蛍光団や機能性原子団を位置特異的に導入可能なリガンド指向性LDAI ケミカルラベリング試薬の設計と合成を行った。LDAI試薬は、受容体認識を行うリガンド部位、反応性ユニットであるアシルイミダゾール基ならびに蛍光性色素から構成される。これまでに、各構成ユニットやそれらを連結するリンカーの種類や長さ等を系統的置換した複数の機能性分子を合成した。また、培養細胞上に発現させたGABA(A)受容体に対する蛍光色素のラベル化を試み、ラベリング効率、選択性や速度を含めたラベル化能について系統的に評価することで、ラベル化剤の構造最適化を行った。さらに、初代培養神経細胞に対する蛍光色素のラベル化にも成功し、共焦点顕微鏡を用いて、内在性GABA(A) 受容体をイメージングすることが出来た。以上の理由から本申請課題はおおむね順調に進展しているものと判断出来る。
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今後の研究の推進方策 |
次の段階では、マウスから単離したニューロンや急性脳組織スライスに加えて生きたマウス脳内に存在する内存性GABA(A)への特異的蛍光色素導入とバイオセンサー化を図る。脳内において GABA(A) 受容体は、脳の領域毎に異なる特性や機能を持つことが示唆されているため、各領域におけるバイオセンサーの応答性を詳細かつ系統的に比較検討することで、実際の脳内でのリガンド認識特性やイオンチャネル活性を反映した薬剤アッセイシステムを構築することが出来るものと期待される。最終的には、構築した受容体型半合成バイオアッセイシステムを用いて、多様な化合物ライブラリに対する網羅的ハイスループットスクリーニングを行い、GABA(A)受容体特異的に作用可能な新規薬剤候補を見いだす。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ拡大の影響により、海外からの試薬の納入の遅れや学会参加計画変更による。今後はコロナ感染拡大の影響を最低限におさえつつ、オンラインによる学会参加等により積極的に研究を遂行する。
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