研究課題/領域番号 |
20K05747
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
蓑島 維文 大阪大学, 工学研究科, 助教 (20600844)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / in vivoイメージング / ビスフォスホネート / 骨細胞 |
研究実績の概要 |
本年度においては、骨組織の細胞挙動を探る新たなイメージングプローブの開発に取り組んだ。骨細胞は骨組織表面だけでなく骨組織内部に広く分布しており、骨の恒常性維持、機械的刺激への応答に寄与していると考えられている。しかしながらその機能に関しては不明な点が残されており、特に骨細胞が骨を溶解するのかについては議論の余地があった。深部に送達されるようビスフォスホネート構造を骨ミネラル成分であるヒドロキシアパタイトへの結合が弱いリセドロネートを導入し再設計した。pH応答性、及び非応答性のプローブを合成し、それぞれの蛍光強度のpH変化による挙動を調べた。骨細胞の機能を可視化するために生きたマウスの骨組織を二光子励起顕微鏡を用いてイメージングを行う。蛍光プローブをマウスに投与し、頭頂骨を露出させて二光子励起顕微鏡により骨髄腔側から骨組織を観察する。従来観察していた骨組織表面だけでなく、より組織内部の骨小腔に焦点を当ててイメージングを行うことで、この部位に分布している骨細胞の機能を可視化する。新たに合成したpH応答性蛍光プローブにより骨小腔のpHを可視化することで、骨細胞による骨組織の吸収(骨細胞性骨溶解)を検出し、時空間を特定した解析技術を構築する。本年度は二光子励起顕微鏡を用いたマウス骨組織のイメージングを行い、前年度までに合成した新たなプローブが骨組織深部の骨小腔のpHを可視化できることを示した。このプローブは骨表面だけでなく、骨組織内部にも送達されており、骨小腔を示す円盤状の蛍光シグナルが観察された。一方で蛍光シグナルはすべての骨小腔ではなく、一部のものから観察されており、この結果は定常状態の骨小腔のpHを反映していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
骨組織の細胞挙動を探るイメージングプローブにおいて、骨組織のより内部に存在する骨小腔のpHの可視化に当初の計画時期よりも早く成功した。この領域に分布している骨細胞の活性の検出ツールとして用いることで、今後の研究の進展も期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
骨組織におけるpH値を正確に測定できる波長シフト型の蛍光プローブを開発する。以前に開発した蛍光プローブは、pH変化によりスピロラクタム環構造が形成されることで、蛍光スペクトルだけでなく吸収スペクトルも変化する。そこで、この色素を蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のアクセプター色素とすることで、波長シフト型のpH応答性蛍光プローブができるのではないかと考えた。すなわち、ドナー側の色素の蛍光がアクセプター側の吸収と重なるよう色素を選択することで、重なり積分がpHにより変化し、pHによる蛍光波長の変化が期待できる。中性pHではアクセプター色素の吸収が現れないため、ドナー色素を励起するとドナー色素由来の蛍光が観察される。一方で、酸性pHではアクセプター色素の吸収が現れるため、ドナー色素を励起するとアクセプター側の色素にFRETを起こし、アクセプター色素由来の蛍光が観察される。以上の設計指針に基づき、ドナー側の色素を選択し、両者を剛直なシクロヘキシルリンカーでつなげた蛍光プローブを合成する。このプローブを骨組織のイメージングに応用することで、pHの定量化によるより詳細な解析が期待できる。また、骨芽細胞活性蛍光プローブについても設計と合成を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で予定より旅費の執行が減少したため、次年度使用額が生じた。次年度は研究遂行のため物品費を中心に使用する予定である。
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