研究課題/領域番号 |
20K05749
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
下山 敦史 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90625055)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リポ多糖 / リピドA / セルフアジュバンティングワクチン / 抗原-アジュバント複合体 / 糖鎖ミミックリンカー / ケミカルエコロジー |
研究実績の概要 |
脊椎動物の免疫は、先天的な自然免疫と抗原認識により活性化される獲得免疫に分類でき、代表的な自然免疫活性化因子としてグラム陰性菌の細胞外膜成分リポ多糖とその活性中心リピドAが知られている。一方で近年、抗原とアジュバントの複合化により、効率的な抗体産生が誘導されるというセルフアジュバント効果が報告されている。リピドAと抗原の複合化によりアジュバント作用を最大限に引き出せる、セルフアジュバンティングワクチンの開発に注目が集まっているが、そのためには、リピドAの自然免疫活性化能を保持したままで抗原と結合させる必要がある。そこで本研究では、天然リポ多糖構造を模倣する戦略により活性を保持可能なリピドA修飾法を検討し、自然免疫活性化に加え第二の機能を付加した高次機能化リピドAの合成戦略確立を目指している。これまでに、修飾位置の決定のための構造活性相関研究を展開し修飾基導入位置をリピドAの6’位と決定した。リポ多糖は、糖脂質リピドAの6’位に多糖部分が結合した構造をとっていることから、多糖構造を模倣した糖鎖ミミックリンカーを開発した。マンニトール誘導体をアミド結合を介して二量化した糖鎖ミミックリンカーを合成し、これをリピドAの6’位に導入した誘導体を合成・機能評価した。リンカーの導入による活性の低下は見られなかったが、最終脱保護で使用する予定の接触水素化条件により、予期せずリンカーのアミド結合が分解してしまうことが判明した。そこで今年度は、アミド結合でなくエーテル結合によりマンニトール誘導体を二量化した第二世代糖鎖ミミックリンカーを開発し、第二世代リンカーは接触水素化条件下において安定であることを確認した。さらには、これを介してリピドAにがん関連糖鎖抗原を導入したアジュバント-抗原複合体の合成研究に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所属研究室が報告した弱毒化リピドAの一種であるMPL504をアジュバントとして選択し、2020年度までの構造活性相関研究により修飾基導入位置をリピドAの6’位と決定した。また、リポ多糖は、糖脂質リピドAの6’位に多糖部分が結合した構造をとっていることから、天然構造を模倣する修飾戦略をとり、多糖構造を模倣した親水性リンカーを開発し、これを用いてリピドAと抗原を結合させることを計画した。所属グループのこれまでの研究から、リンカーの親水性向上により活性が向上すること、ポリエチレングリコールリンカーでは親水性が十分でないことが示唆されていたため、糖アルコールを基盤とした親水性リンカーをデザイン・合成した。具体的には、マンニトール誘導体をアミド結合を介して二量化した糖鎖ミミックリンカーを合成し、これをリピドAの6’位に導入した誘導体を合成・機能評価した。リンカーの導入による活性の低下は見られなかったが、最終脱保護で使用する予定の接触水素化条件により、予期せずリンカーのアミド結合が分解してしまうことが判明した。そこでアミド結合でなくエーテル結合によりマンニトール誘導体を二量化した第二世代糖鎖ミミックリンカーを開発し、第二世代リンカーは接触水素化条件下において安定であることを確認した。続いて、6’位をアミノ化させたリピドA保護体を調整し、糖鎖ミミックリンカーを導入した。今後、がん関連糖鎖抗原であるTn抗原を導入し、アジュバント‐抗原複合体の合成を完了する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度までに、構造活性相関研究に基づく修飾位置の決定、糖鎖ミミックリンカーの開発を完了した。2022年度は、開発したリンカーを用いて、リピドAへの抗原の導入を試みる。複合化する抗原としては、以下のような理由からがん関連糖鎖抗原を選択した。細胞表面糖鎖は、がんをはじめ様々な疾病において特異的なパターンを発現する。そのため、がん関連糖鎖抗原を中心に、糖鎖抗原はワクチン開発ターゲットとして注目されている。一方で、変質した自己であるがん抗原は抗原性が低く、がん関連糖鎖抗原を基盤としたがんワクチン開発の成功例はほとんどない。そこで、セルフアジュバント効果を併用できるアジュバント‐抗原複合体をワクチンとして開発することで、低い抗原性を克服が期待でき、革新的治療薬となり得ると考えた。がん関連糖鎖抗原としては多様ながんに高発現するTn抗原を用いる。合成した複合体は、マウスB細胞・樹状細胞に作用させた後、抗体産生量をELISAで定量し、がんワクチン療法としての有用性を評価する。また、抗原を蛍光基やビオチン基に置き換えることで、リピドA化学プローブの開発にも着手する。また、共有結合による複合化に加え、より簡易な複合化戦略として、脂質ナノ粒子(LNP)の使用も検討する。LNPは脂質などで構成され100 nm程度の均一な粒子として簡便かつ大量に調整可能である。100nm程度の粒子は、免疫細胞に積極的に認識されるため、現状のSARS-COV-2ワクチンもLNPを用いている。糖脂質であるリピドAはLNP成分としても利用できることから、リピドA含有LNPを作成し、これに抗原を内包もしくは吸着させ、複合化を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、多くの学会がオンライン開催となった。それに伴い、旅費として計上していた予算の支出が大幅に減額となった。研究計画自体はおおむね順調に進行しており、生じた次年度使用額については、有機合成研究をより一層促進させるため、物品費(消耗品、有機合成試薬)として使用する予定である。
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