研究課題
近年、がん細胞の生存や抗がん剤耐性獲得へのオートファジーの関与が報告され、オートファジー阻害剤は新規抗がん剤として開発が期待されている。臨床試験においてリソソーム阻害剤hydroxychloroquine (HCQ) のがん化学療法との併用の有効性が示されてきた一方、HCQの抗がん活性にオートファジー阻害が寄与しないことが報告されるなど、“非特異的”オートファジー阻害剤に対する信頼性は揺らいでいる。本研究では、オートファジー“特異的”阻害剤を開発し、前立腺がん細胞の抗がん剤感受性に及ぼす影響を評価することで、がんにおけるオートファジーの意義の再考とオートファジー特異的阻害剤のがんアジュバント薬としての有効性の実証を行った。オートファジーに特徴的なイベントであるオートファゴソーム膜形成に重要なAtg4Bの強力な阻害剤を見出した。さらに構造最適化を行い、物性を改善したオートファジー阻害剤の開発に成功した。前立腺がん細胞を用いた検討で、単独での細胞毒性が低い一方で、抗がん剤との併用で作用増強効果を示したため、HCQとは異なりリソソーム機能阻害に依存しないがんアジュバント薬になることが期待された。また、見出したAtg4B阻害剤の構造情報を基に、長鎖脂肪酸がAtg4B阻害を介したオートファジー阻害剤であることを見出した。高濃度の長鎖脂肪酸はアポトーシス誘導を介して抗がん活性を示す一方で、前立腺癌細胞を比較的低濃度の長鎖脂肪酸で処理した際にアミノ酸飢餓で誘導したオートファジーを有意に阻害した。また、abirateroneなどの去勢抵抗性前立腺がん治療薬によって誘導されるオートファジーも阻害し、abirateroneによる抗がん活性を有意に増強した。これらの結果は、オートファジー特異的阻害剤が前立腺がん治療において既存薬の作用増強に有効であることを示唆する。
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