研究課題
ホウ素クラスター分子であるBSHが非共有結合によるキャリア分子との相互作用によって細胞内に移行するかどうかの予察研究として、カチオン性ポリマーの添加を試みた。その結果、BSHとカチオン性ポリマー(ポリエチレンイミンおよびポリリジン)は水中で静電的相互作用を引き起こし、nmスケールのナノ粒子を形成することを明らかにした。また、動的光散乱法(DLS法)を用いた解析によって、BSHとカチオン性ポリマーの比に応じてその粒子径が変化し、20-700 nmのナノ粒子が生成することを明らかとした。次に、これらのナノ粒子の生物学的評価を行った。具体的には、その細胞毒性と細胞内取り込み量について評価した。細胞毒性について評価した結果、細胞毒性が高いことが知られているカチオン性ポリマー単独よりもナノ粒子の方が低い毒帝を示した。これは、相反する電荷を有するBSHが正電荷を中和するためと考えられる。続いて、ナノ粒子の種々のがん細胞への取り込み量を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により評価した。その結果、BSH/カチオン性ポリマー(1/4)で構成されたナノ粒子ではBSH単独の12-20倍の取り込み量を示す事が明らかとなった。これは、細胞膜の負電荷と反発するBSHの電荷がカチオン性ポリマーにより中和されるために細胞に導入されやすくなったものと考えられた。これらの結果から、BSHとカチオン性ポリマーは混合することでそれぞれが有する欠点を補完し、相乗効果を生み出すことを明らかとした。また、当初の目的であった非共有結合を介してBSHとキャリア分子を結合することで、細胞内取り込み量を向上させることが可能であることを明らかにした。
3: やや遅れている
予察研究を想定して行ったBSH-カチオン性ポリマー複合体が想定以上の細胞内取り込み(BSH単独の12-20倍の取り込み量)を示したので、当初の分子設計とは異なるものの、目的であるB10を大量に細胞内に送達する技術の開発についてはすでに確立したものと考えている。また、本法を用いることで種々の細胞において高いB10取り込みが見られることを確認しているが、正常細胞に対しても高い取り込み量を示してしまったため、その点の改善について検討する必要が出てきた。そのため、本来の進行予定よりも遅れてしまっているのが現状である。
当初の計画では非共有結合としてBSHのチオール基と金属イオンとの配位結合を利用しようと考えていたが、本研究においてBSHはカチオン性ポリマーと混合するだけでも静電的相互作用によりナノ粒子を形成し、B10原子の高い細胞内取り込みを実現できることが明らかとなった。今回発見したBSH含有ナノ粒子は二つの分子を混合するのみで調製することが可能であり、臨床においても簡便に使用できることが期待される。そのため、その実用性についても加味したうえで、今後はBSHとカチオン性分子の相互作用を利用したB10送達システムについて検討を行っていくこととする。上述の通り、実用化に向けての第一の課題はT/N比(腫瘍/正常組織)の向上である。今年度は、この点についてBSHまたはポリマー側に標的分子を修飾する等の手法を用いて検討していく予定である。
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Results in Chemistry (a joint special issue with Inorganica Chimica Acta)
巻: 3 ページ: 100133-
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