研究課題
当該研究者はこれまで臨床生検のような少量のサンプルから十分な深度でイムノペプチドを検出することは困難であった質量分析法の改良版として、イオンモビリティーを用いた高分解能質量分析計(DIM-MS)を導入し、その分析条件を至適化することで検出感度を大幅に向上させることに成功した。最終年度では、その手法に患者個人のゲノム情報から作成したタンパク質データベースを用いたペプチドゲノミクスアプローチを用い、実際の臨床検体からドライバー変異を有するネオ抗原を同定した。その結果をもとにさらに細胞株を用いた分析を行い、新たに2種のドライバー変異を有する抗原配列を同定した。ドライバー変異は細胞のがん化開始に重要な役割を持つ変異であり、これを獲得したがん細胞がさらに様々な変異を追加獲得することでより複雑ながん細胞の多様性が生じることが知られている。このように、ドライバー変異を有するネオ抗原はがん化初期より腫瘍形成に寄与する変異であることから、腫瘍塊においてより多くのがん細胞において高頻度に共通して提示される抗原であると考えられており、より多くの患者間で汎用性のあるがん免疫療法について模索する際に非常に有用な抗原候補となりうると考えられている。これまで、質量分析によるイムノペプチドミクスを用いた分析で、内在性に発現したソースタンパク/ペプチド由来で、自然発生的に抗原提示されているドライバー変異を有するネオ抗原を直接同定できた報告例は非常に限られており、特に、固形がんである大腸がん臨床組織を用いたイムノペプチドミクスによるドライバー変異を有する抗原同定の成功例としては本研究が先駆けた報告例となったと言える。また、得られたイムノペプチド情報からは腫瘍において特徴的なプロセシング情報も得られており、これは抗原提示に関わる細胞内プロセシングにおいて未知の機序があることを示唆するものであった。
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Cancer Science
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https://www.jfcr.or.jp/laboratory/news/9739.html