GPCRは薬の主要な標的分子である。本研究では、モデルGPCRにおける分子間相互作用計測と、網羅的なGPCRの1分子イメージングを行い、細胞膜中のGPCRの拡散動態を規定する分子基盤を明らかにすることを目的とする。これにより、任意のGPCRに対する複数の薬効を1分子イメージングで評価できる基盤を構築し、1細胞におけるGPCRの拡散動態変化から化合物評価を行うGPCRome解析を実現する。 2022年度は、AT1R・V2Rをモデルとし、シグナル伝達分子(アレスチン・クラスリン・Raf)との相互作用を3色同時1分子イメージングにより解析した。その結果、GPCRとアレスチンの結合様式に応じて、受容体のエンドサイトーシスとERK応答のバランスが変化することが分かった。また、細胞膜上でアレスチンは触媒的にRafを膜移行させ、ERK応答を引き起こしていることが示唆された。 また、2021年度に確立したGPCRの蛍光ペプチド標識手法を用いて96ウェルプレートによる自動計測を開始した。パイロット実験の結果、手動計測時と同様、多くのGPCRに共通して拡散係数が低下する現象が自動計測でも再現できることを確認した。また、アレスチンをノックアウトした培養細胞では、GPCRの拡散動態変化が抑制されることが示され、アレスチン結合が拡散動態変化を規定する主要因であることが明らかになった。 本研究から、多様なGPCRに共通した拡散動態変化はアレスチン結合と主に連関することが示唆された。GPCRに対するアレスチン結合の様式は少なくとも3種類あるが、GPCRのみの1分子動態計測でこれらを見分けるのは困難であることが本手法の限界として示された。したがって、より高精度に化合物評価を実施するためにはGPCR・アレスチンの網羅的計測が必要であると考えられる。
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