アーバスキュラー菌根(AM)菌との共生した根(菌根)における土壌中のリン獲得機構を理解するために、菌根を形成するモデル植物のミナトカモジグサを用いて、土壌中のリンの可溶化や吸収機構を遺伝子レベルで調査した。昨年度までに養分状態や接種菌根菌種を変えた試験を実施し、菌根形成時の植物体におけるリン獲得機構の一端を明らかにした。今年度はより詳細な制御機構を明らかにするために根分けを行い、片方の区画にAM菌 Rhizophagus irregularis DAOM197198を接種した感染個体および非接種の非感染個体を作成することで、同一個体での菌根の形成によるリン獲得制御機構を調査した。同一個体の感染根(MR)と感染していない根(nMR)では根の新鮮重量は有意な差は見られず、菌根菌の感染はMRでのみ認められ、その時の網羅的な遺伝子発現調査と遺伝子共発現ネットワーク解析の結果、既知のAM菌共生関連遺伝子が濃縮した遺伝子群(菌根モジュール)とリン可給化に関わる遺伝子やリン酸輸送体が濃縮した遺伝子群(根リン獲得モジュール)を特定した。菌根モジュールはMRでnMRに比べて有意に高く、逆に根リン獲得モジュールはnMRでMRと比べて有意に高い値を示したことから、菌根の形成によるリン獲得のトレードオフが示された。また、MRではnMRに比べて、無機態リン酸濃度が有意に高い値を示したことから、MRではnMRと比べて菌根経路からのリン酸獲得が高まることで、直接経路のリン吸収やリン可給化が局所的に抑制されている可能性が示唆された。一方で根圏土壌におけるAPase活性はMRでnMRに比べて有意に高い値を示しており、AM菌によるAPase分泌がMRでのリンの可溶化に寄与する可能性も示された。本研究により、菌根形成植物では局所的なAM菌の感染状況に応じたリン獲得の制御機構が存在することが示唆された。
|