現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
安定したデータを収集するための測定ルールを策定するため,測定のバラツキを発生させる要因の検証をおこなった。葉の表と裏から測定した場合,K, P, S, Znで10%以上の濃度差が発生していた。また葉の中央と縁で測定したデータを比較した結果でも,Si, K, Fe, Moで半数以上の標本に有意差が認められた。標本の水分含量は平均で7%程度であり,。これらの結果を踏まえ,測定は葉の表面側(基本的に植物標本ははの表が上になっている)から,葉の中心部付近の,葉脈をなるべく避けた部分で測定し,また標本について記録する事項には,採取場所や作成者の情報の他,作成時期についても記述し,参照できるよう記録方法を策定した。 年度後半では実際に研究機関などが保存する標本のローンを受け,測定を開始した。藤原岳自然科学館および伊吹山文化資料館が所有する石灰岩土壌の植物標本計310サンプル(82標本および228標本), 非石灰岩土壌植物として,三重大学および三重大学演習林などの328標本,合計638サンプルのXRF測定を行った(2020年2月現在)。石灰岩土壌,非石灰岩土壌それぞれの土壌で90%以上測定できた元素は7種類(K, Ca, Fe, Zn, Mn, Mo, Si), 80%以上測定できた元素はSおよびPであった。Welchのt検定において有意水準1%で平均値に差がある元素はP, S, Fe, Zn, Mn, Moであり(K, Ca, Siは0.01<P<0.05),このうちFe, Znについては石灰岩土壌の植物が非石灰岩土壌の植物の2倍以上高く,逆にMnは非石灰岩土壌の1/3と低かった。このことより,従来植物栄養学上の常識とされた「石灰岩土壌ではpHが高く,鉄や亜鉛などの微量元素が吸収しづらく,欠乏症となる」という概念に一石を投じる結果が得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度(科研費研究初年度)に確立したXRFの測定ルールを基準として,2021年度は測定数およびデータの積み重ねと,小規模から中規模のデータベースを構築と植物栄養学的知見のデータ抽出を図る。現状では一日あたりの測定数が15-20標本程度であるが,年間2,000-3,000標本の測定データの積み増しを図り,研究が終了する2023年度までに大規模データと言える10,000標本の測定を目指す。XRFによる各元素の測定には検出限界から来る下限値があるため,正規分布を描くデータベースは構築できないが,高集積性植物については上位5%に含まれる植物種について,低集積性植物については検出限界に達しなかった標本も含めて植物種の解析を進める。 2021年4月現在まで標本の測定に協力可能な機関は中部圏(三重大学関係,伊吹山,藤原岳関係),北陸(福井総合植物園),四国(高知県立牧野植物園),中国(岡山大学資源植物科学研究所)であり,2021年度までにこのエリアにおける植物の元素データベース構築を目指す。一方,本研究課題主要テーマである「火山灰土壌と非火山灰土壌における植物の硫黄集積量の相違」について解析を行うためには,北海道,東北,九州などの火山灰土が堆積したエリアでの植物収集や標本収集が不可欠である。そのため(コロナ禍でも可能であれば),自身での標本作製のため神奈川の箱根エリア,北海道(十勝岳近辺)などで植物採取と標本作製を予定しているほか,火山の近くにある植物園などに標本のローンを依頼する。その他,ウコギ科植物の金属集積性に関する情報収集(特にコシアブラとタカノツメ)を進めるほか,2020年度に中部地方で行った石灰岩植物の解析について,四国の標本を新たに解析することで,得られた結果の普遍性について検証する。
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