研究課題/領域番号 |
20K05767
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 優 京都大学, 農学研究科, 准教授 (60281101)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 植物 / ホウ素 / 栄養欠乏ストレス / 細胞壁 / ペクチン |
研究実績の概要 |
ホウ素は植物の微量必須元素であるが、土壌が十分な量のホウ素を含有せず、作物がホウ素欠乏障害を発症する地域は世界中に分布している。ホウ素欠乏は短時間でも重大な影響を及ぼす。例えば、ホウ素を含まない培地にシロイヌナズナを移植すると1時間以内に根端伸長領域で細胞死が発生する。ホウ素は細胞壁でペクチンを架橋してゲル化させ細胞壁構造を安定化させる役割を担うので、この迅速な細胞死は細胞壁の構造異常が原因で発生すると推定されるが、その過程や因果関係はほとんど未解明である。即ちホウ素欠乏が植物に傷害をもたらす機構は未だ明らかでない。そこで我々はホウ素欠除処理に対するシロイヌナズナの応答の詳細な解析を進めている。まずホウ素欠除処理した根の細胞壁力学的強度を原子間力顕微鏡を用いたナノインデンテーション法により検討した結果、細胞死が発生する伸長領域において、処理後1時間以内に剛性(ヤング率)が低下することが明らかとなった。すなわちホウ素欠除処理がごく短時間のうちに細胞壁の力学的強度を低下させることが実証された。さらに、ペクチン分子内のホウ素架橋部位であるラムノガラクツロナンII領域の分子構造に変異を導入した変異株でも同様の解析を進めており、根細胞壁の力学的強度が低下することを示唆する結果が得られつつある。これらの知見は、ホウ素によるペクチン架橋が細胞壁の力学的強度維持に重要であり、欠乏障害もその形成不全と関連があることを示唆する。また、ホウ素欠除処理時に蓄積する活性酸素分子種を生成する分子装置の同定を試みている。蓄積する活性酸素分子種は主にスーパーオキシドであることから、従来はNADPHオキシダーゼ(Rboh)の関与を想定していたが、遺伝子欠損株を用いた検討及び各種阻害剤の効果に関する検討から、細胞壁ペルオキシダーゼが応答の鍵酵素であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に挙げた原子間力顕微鏡による細胞壁力学的強度の解析、活性酸素分子種の発生機構に関する研究についてはいずれも実施中であり、概ね計画通りに進展している。新型コロナウイルスの感染拡大による研究活動制限の影響で一部予定通りに実施できなかった項目もあるが、大幅な遅延には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
原子間力を用いたシロイヌナズナ根の力学的強度測定については一般的に確立した実験手法ではないため技術的な問題も予想されたが、それらは2020年度の検討により概ね解決されたため、2021年度はその手法を用いて実際の解析を加速推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大に伴う活動制限により、計画の一部を年度内に実施しなかったこと、また学会がオンライン開催となり年度内に旅費を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。計画していた実験は2021年度に実施予定であり、学会についても2021年度は現地開催が予定されているため、未利用額はそれらに要する経費に充当する予定である。
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