研究課題/領域番号 |
20K05770
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
山本 定博 鳥取大学, 農学部, 教授 (30200801)
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研究分担者 |
遠藤 常嘉 鳥取大学, 農学部, 教授 (70423259)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乾燥地 / 灌漑農地 / 低温 / 灌漑 / 土壌ソーダ質化 / 塩類土壌 / リン溶脱 |
研究実績の概要 |
低温環境下でのナトリウム(Na)塩の選択的溶脱が乾燥地の灌漑農地の土壌ソーダ質化(Naイオンの影響で土壌の物理性,化学性が劣悪化する土壌塩類化の形態)に及ぼす影響,さらに土壌ソーダ質化に付随する土壌Na塩組成変化が土壌無機態リンの洗脱に及ぼす影響を明らかにするために以下の検討を行い,低温環境での灌漑は土壌ソーダ質化を促し,土壌ソーダ質化は無機態リンの土壌からの溶脱ポテンシャルを高める結果を得た. (1) 低温での灌漑がNa塩の洗脱と土壌塩類組成に及ぼす影響を検討した.NaCl(0-40℃で溶解度一定),Na2CO3(低温で溶解度が著しく低下)を添加した人工塩類土壌を充填した土壌カラムに人工灌漑水を5℃(低温区), 20-23℃(室温区)で浸透させた結果,Na塩洗脱により塩類集積状況は改善されたが,低温区では重炭酸イオンの溶出が有意に抑制され,土壌のSAR,pHが室温区より有意に高くなった.つまり,低温区ではNa塩の選択的溶脱が生じ,低温で溶解度が低下するNa2CO3の溶脱抑制により土壌ソーダ質化が促進される結果を得た. (2) 土壌の固相-液相間の陽イオン交換反応の観点から土壌溶液の塩組成,土壌特性が土壌ソーダ質化に及ぼす影響についてまず室温条件で検討した.NaとCaの陽イオン選択係数から,土壌ソーダ質化は灌漑水の水質だけでなく,土壌の粘土含量にも大きく影響され,砂質土壌は,粘質土壌よりも急速にソーダ質化が進行する結果を得た. (3) 土壌および灌漑水のNa塩組成が無機態リン(Ca態リン)の溶解と洗脱に及ぼす影響を検討した.ソーダ質土壌に主要なNaHCO3は,塩類集積土壌の主要Na塩であるNaClよりも土壌Ca態リンの溶解性を大きく高め,透水性良好な土壌条件では,土壌の急速なソーダ質化によりリン溶脱が促進された.加えて,灌漑水からの重炭酸イオン負荷もリン溶脱を促進した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度,本研究の一連の検討内容について今後の展開のベースとなる基本的な成果が得られた. まず,本研究の核心的部分である低温条件下での異なるNa塩の選択的溶脱とそれに伴う土壌ソーダ質化の進行を土壌カラム実験により現象として捉えることができた.また,ソーダ質化過程について,まず,室温条件においてイオン交換反応の観点から基本的な影響要因を検討し,粘土鉱物の量的因子が重要な意味を持つこと(今年度,低温条件と比較・検証予定),さらに,令和3年度に実施予定であった実験を前倒しで行い,灌漑に伴う土壌中のNa塩の量と組成の変化が土壌無機態リンの挙動に及ぼす影響を明らかにできた.これらの結果を相互に関連させながら今後詳細な展開をおこなうベースができた. 当初計画していた中国の現地圃場での検証実験は,COVID-19により実施できなかった.今後,中国の圃場での実験実施の目処が立てられないため,その代替実験として日本国内での土壌カラムやポットを用いた実験の準備を並行して進めた.当初の目的を達成するために,実験規模を可能な範囲でスケールアップできるように,乾燥地の塩類土壌を再現するために供試する2:1型粘土に富む土壌試料を十分量確保できるサイトを探し,兵庫県北部からスメクタイト質土壌(粘土鉱物組成は分析して確認している)を必要量入手した.
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今後の研究の推進方策 |
低温条件におけるNa塩(NaCl, NaHCO3, Na2CO3)の選択的な溶脱過程が土壌ソーダ質化の進行に及ぼす影響を多様な土壌・灌漑水の条件を設定した土壌カラム実験で詳細に検討する.土壌には,スメクタイト質土壌に炭酸カルシウムを添加して調整した人工乾燥地土壌を供試し,土壌中のNa塩の量と組成を変えたモデル的な塩類集積状態(塩性,ソーダ質,塩性-ソーダ質)を設定するとともに,灌漑水は中国内陸部や中央アジアの灌漑水の組成を参考にNa塩の濃度と組成を変えた条件を設定する.この実験は塩の洗脱過程を想定しており,土壌の透水性など水や塩類の移動に関わる物理的特性への影響も評価する. 低温下での洗脱過程に加えて,夏季の地表面蒸発が旺盛な環境での塩類の表層への再集積過程も再現した土壌カラム実験を別途設定し,低温下での塩類の洗脱,夏季の集積過程の繰り返しが土壌塩類組成に及ぼす影響も検討する. 土壌ソーダ質化プロセスについては,初年度の室温条件での結果を踏まえて,低温条件で種類と量の異なる粘土鉱物に塩組成の異なる溶液を作用させるイオン交換反応実験を行い,両者の結果を比較し,低温環境が陽イオン交換反応を介して土壌ソーダ質化に及ぼす影響を検討する. Na塩が無機態リンの溶解,溶脱に及ぼす影響については,初年度の室温条件で検討した土壌カラム実験結果の解析を行うとともに,低温条件下での無機態リンのNa塩溶液への溶解性を検討する.これらの一連の結果を取りまとめ,成果の発表を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
中国の現地圃場での実験を計画していたが,COVID-19により実施できなくなり,そのために確保しておいた中国への出張旅費,現地での謝金等の支出ができなかったため.そのため実験内容を変更し,令和3年度に計画していた実験(土壌ソーダ質化による土壌無機態リンの溶脱促進効果を明らかにするモデル実験)を前倒しで実施したが,当初の支出予定額を全額執行できなかった. 次年度使用額分は,中国への渡航が可能になれば,その旅費に充当するが,現状では,COVID-19の終息の見通しが立てられないため,実験条件やスケールを修正して国内でおこなう土壌カラム実験のための物品費として充当する予定である.
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