昨年度に引き続きシグナル候補の一つであるサイトカイニンについて解析を進めた。4種類の接ぎ木植物(WT/ ipt357、NR-null/ipt357、ipt3/ipt357、ipt3 NR-null/ipt357*穂木/台木)に硝酸イオンを蓄積させた後、窒素欠乏条件で栽培し、成長、窒素化合物濃度、サイトカイニン濃度、遺伝子発現などを解析した。その結果、WT/ipt357の地上部と比べNR-null/ ipt357の地上部では、成長、硝酸イオン濃度、iP型サイトカイニン濃度、IPT3遺伝子とサリチル酸合成・応答遺伝子の発現レベルがともに増加した。一方、ipt3/ipt357の地上部と比べipt3 NR-null/ipt357の地上部では、硝酸イオン濃度が増加したものの、成長、iP型サイトカイニン濃度、サリチル酸合成・応答遺伝子の発現レベルは増加しなかった。このことから、地上部への硝酸イオンの蓄積にともなって地上部のiP型サイトカイニンシグナルが亢進することにより、地上部の成長と防御応答が促進されることが示唆された。一方、4種類の接ぎ木植物の間で葉の師管液中のサイトカイニン組成に大きな違いがなかった。また、WT/ipt357とipt3/ipt357の根と比べ、NR-null/ipt357とipt3 NR-null/ipt357の根では窒素欠乏誘導遺伝子の発現が抑制された。このことから、地上部への硝酸イオンの蓄積にともなって合成されるiP型サイトカイニンは、地上部の窒素栄養状態を根に伝達する長距離シグナルではない可能性が示唆された。4種類の接ぎ木植物の地上部と根をもちいたRNA-Seqの結果から、ペプチドやサイトカイニン以外の植物ホルモンが長距離シグナルとして機能する可能性が示唆された。
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