研究実績の概要 |
植物に特異的なALMTファミリー・リンゴ酸輸送体の多様な生理機能に着目し,本研究では気孔の孔辺細胞で発現するトマトとシロイヌナズナの「気孔タイプALMT」のSlALMT11とAtALMT12について解析した.本年度はアフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて,電気生理学的に輸送の活性化について調査した. SlALMT11とAtALMT12は,共に外液のリンゴ酸で活性化され,リンゴ酸を放出する機能をもつ.電気生理学的測定手法では,外液リンゴ酸で活性化されるリンゴ酸放出に伴う電流パターンは(植物の細胞膜の静止電位である)-100 mV付近の膜電位をピークにした「ベル型」を示した.同様の「ベル型」電流パターンは,フマル酸,クエン酸でもみられた.そして,外液を塩化ナトリウムや,硝酸塩,硫酸塩などの無機イオンや,グルコン酸(モノカルボン酸)にすることで,「ベル型」電流パターンのピークを示す膜電位は-60 mV付近まで上昇し,リンゴ酸放出を示す電流の値は低下した.このことから,外液にリンゴ酸などの有機酸を添加することで気孔タイプALMTの電位依存性が過分極側に変化し,チャネルの開口が促進されることが明らかとなった. さらに,外液のリンゴ酸(L体)については,鏡像異性体のD-リンゴ酸でも同様に活性化を示すが,フマル酸の幾何異性体のマレイン酸ではグルコン酸などと同じであった.試験した外液のpH 5.6で,マレイン酸は分子内水素結合体となり,一つのカルボキシル基(モノカルボン酸様)となる.すなわち,気孔タイプALMTチャネルの十分な活性化には,細胞外(植物のアポプラスト側)にジカルボン酸・トリカルボン酸が必要であることが示された. 以上の結果と昨年度までの成果から,トマトとシロイヌナズナの気孔タイプALMTの特性を取りまとめ,Plant, Cell & Environment誌に掲載された.
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