研究課題/領域番号 |
20K05776
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
梅原 三貴久 東洋大学, 生命科学部, 教授 (30469895)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ストリゴラクトン / イネ / 窒素欠乏 / リン酸欠乏 / 硫黄欠乏 / ラミナジョイント |
研究実績の概要 |
葉の角度は重要な農業形質の一つで、葉を直立させることで光合成効率が向上し、密植栽培が可能になるため、単位面積当たりの穀物の収量増加に繋がる。したがって、葉の角度の制御機構について研究することは農業分野において重要である。植物ホルモンのストリゴラクトン(SL)はイネの葉身と葉鞘の接続部分であるラミナジョイント(LJ)の角度の増加を抑制することが知られている。イネの品種シオカリでは窒素(N)、リン(P)、硫黄(S)欠乏条件下で栽培するとSLの内生量が増加し、LJの角度が減少する。-N、-P、-S条件下でSL内生量の増加し、葉の角度が小さい状態のまま維持できると考えられる。ただ、シオカリのLJの角度は、他のイネ品種と比較して小さいことがわかった。これのことから、イネの品種間で葉身屈曲応答に差がある可能性が示唆された。本研究では、シオカリ、日本晴、農林8号、台中65号、カサラス、コシヒカリ、ひとめぼれ、キヌヒカリ、ササニシキ、あきたこまちの10品種を使って、栄養欠乏条件下でのLJの角度の品種間差とSL量の関係について検証した。台中65号、カサラス、ササニシキ、あきたこまちのLJの角度は-Nでのみ減少した。日本晴、農林8号、キヌヒカリのLJの角度は-N、-Pで減少した。シオカリ、コシヒカリ、ひとめぼれのLJの角度は-N、-P、-Sで減少した。また、SL定量分析の結果、日本晴と農林8号では-N、-Pで根の4-deoxyorobanchol (4DO)内生量が増加した。塩狩とコシヒカリでは、-N、-P、-Sで4DOが増加した。カサラスとあきたこまちでは、いずれの欠乏条件でも4DOの増加が認められなかった。以上の結果から、-P、-SでLJの角度の減少した品種では-P、-S でSLが増加したことから、-P、-SにおけるLJの角度の減少にはSLが関係していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの感染状況はまだ収束を見せていないが、今年度は昨年度とは異なり、大学の実験室での活動制限が緩和されたことでほぼ予定通りの研究進捗状況と言える。一部の品種でストリゴラクトン分析が未実施であるが、それについては順次進めており、完了できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
イネのシオカリでは、SLの内生量は、窒素、リン酸、硫黄の欠乏に応答して増加する。シオカリのLJの屈曲角度は窒素、リン酸、硫黄欠乏条件下でLJの角度が小さいままであったことから、窒素、リン酸、硫黄欠乏条件下で内生SLが増加し、LJの角度をコントロールしていると考えた。ところが、シオカリ以外の品種ではLJの屈曲角度が大きく展開し、葉身屈曲応答に差がある可能性が示唆された。今年度は10品種での比較であったが、もう少し品種数を増やして評価を行いたい。また、窒素源にNO3-とNH4+の両方を使用しているので、窒素欠乏においてどちらがより重要なのかシオカリや日本晴れのSL変異体を使って調査したい。また、ブラシノステロイド(BR)はオーキシンやジベレリンと相互作用しながら、LJの角度を制御する中心的な役割をもつ植物ホルモンである。そこで、SLとBRがどのように相互作用しているのかを明らかにするために、SL関連突然変異体における内生BR量の分析やBRおよびその生合成阻害剤ブラシナゾールの影響を調査する。また、SL関連突然変異体のLJにおけるBRの生合成遺伝子や情報伝達遺伝子の発現解析を行う。SLによる窒素代謝調節に関する制御に関しては、野生型およびSL関連変異体の葉身部におけるグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸の定量を行う。
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