研究課題/領域番号 |
20K05777
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
野副 朋子 明治学院大学, 教養教育センター, 准教授 (90590208)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 鉄 / ムギネ酸類 / タルホコムギ / イネ科植物 / 石灰質土壌 / 鉄欠乏 |
研究実績の概要 |
パンコムギのDゲノムの提供親である、タルホコムギ42系統の鉄欠乏に対する生理的な応答を解析するため、鉄欠乏タルホコムギ最新葉のクロロフィル含量、葉の必須微量金属(鉄、マンガン、亜鉛、銅)の含有量、根における25種のケイ皮酸アミド類、2種類のファイトアレキシン、そして根からのムギネ酸類分泌量を測定した。いずれにおいても、品種間があることを見出した。42系統のタルホコムギはいずれもムギネ酸類として主にデオキシムギネ酸(DMA)を根から分泌していることを見出した。いくつかの系統で、他には見られないピークが検出されたが、DMAのピークの方がいずれも大きかった。さらに、分析したフェニルアミド類のうち、15種のケイ皮酸アミド類、2種類のファイトアレキシンがタルホコムギにおいて合成されていることを見出した。葉の鉄含有量と、クロロフィル含量、葉の亜鉛、銅、マンガン含量は正の相関があり、根からのDMA分泌量とは負の相関があった。イネにおいて、クロロフィル含量は植物が鉄欠乏になるほど小さくなり、DMA分泌量は増加することが報告されていることから、タルホコムギの系統間で、鉄欠乏感受性に差がある可能性が示唆された。さらに、葉の鉄含量はクマリン酸やフェルラ酸、2種類のファイトアレキシンと正の相関があることを見出した。クマリン酸やフェルラ酸を含むケイヒ酸類を前駆体として生成するクマリン類は、植物の鉄の取り込みと植物体内の鉄の移行に関与していることが示されている。また、フェルラ酸は鉄毒性に対する抗酸化作用を示すことが報告されている。さらに、ファイトアレキシン合成が鉄関連転写因子により正に制御されることが最近報告された。タルホコムギにおいてもこれらのフェニルアミド類が鉄恒常性維持に関与していると考えられた。さらなる解析により、鉄栄養を向上しうる遺伝子座を持つタルホコムギ系統が見出せると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2022年2月に出産をしたため。出産後、産休で復帰したが、保育園に常時入所できなかったため、長時間必要な実験を進めることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
タルホコムギの系統数を増やして解析を行うことで、新規鉄栄養関連遺伝子の同定を行う。 OsNAS2-GFPイネの葉及び根より全タンパク質を抽出し、抗GFP抗体を用いた免疫沈降法により、OsNAS2-GFPに結合するタンパク質を単離し、プロテオーム解析により同定する。 OsNAS2-GFPイネ及びAtNAS1-GFP分裂酵母にTOM1-mCherry及びENA1-mCherryを導入して、蛍光の共局在を観察する。AtNAS1-GFP分裂酵母を用いて、15 N-NAに加えて15 N-DMAを合成する。さらに15 N-NA及び15 N-DMAをカラムクロマトグラフィーにより精製し、OsNAS2-GFPイネ、分裂酵母への吸収実験に用いる。二次元高分解能二次イオン質量分析装置(high lateral resolution secondary ion mass spectrometer, NanoSIMS)を用いて15 Nの組織及び細胞内局在を可視化することでDMA・NAと鉄の植物体内・細胞内動態を分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年2月に出産をしたため、実験計画に変更が生じた。2023年度は中断していた実験を再開する。
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