PP1複合体とSSV複合体の前胞子膜伸長における役割を明らかにするため、それぞれについて実験を行った。PP1複合体については、野生株とPP1複合体のコンポーネントの1つであるGip1を欠失した株でそれぞれリン酸化ペプチドを濃縮してMS解析を行い、前胞子膜形成に関係する複数の因子のリン酸化状態が変化することを示した。SSV複合体については、中心的役割を果たすVps13のC末端ドメインに変異を導入することにより、温度感受性胞子形成変異株を作製しその表現型を解析した。やはり前胞子膜の伸長が温度感受性になっていることが示され、今後の関連因子の解析と探索の足掛かりを得たと考えられる。 研究期間全体を通じては、PP1複合体については、脱リン酸化のターゲットの候補を明らかにしすることに成功し、さらなる解析を進めている。SSV複合体については、前胞子膜と小胞体の間のコンタクトサイトを形成して、tetherタンパク質やOshタンパク質のそこへの局在化に必要であることや、コンポーネントの1つであるSpo71がVps13のリクルートに加えて前胞子膜上のPI4Pの制御に関与することを示した。 これらの研究を通して、PP1複合体とSSV複合体が互いに独立に関与する前胞子膜伸長の分子機構の理解に貢献した。本研究は、真核生物における新生膜やオルガネラの形成の理解につながるとともに、関連するヒト疾患の理解にもつながるという意義もあると考える。
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