研究課題/領域番号 |
20K05786
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川本 純 京都大学, 化学研究所, 准教授 (90511238)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 外膜小胞 / Shewanella / タンパク質輸送 / 異種タンパク質生産 / 表層糖鎖 |
研究実績の概要 |
細菌は細胞外膜小胞 (EMVs) と呼ばれる脂質膜で覆われたカプセル状のナノ粒子を細胞外に放出する。EMVs には細胞由来の膜タンパク質や脂質、多糖に加え、核酸や病原性因子、情報伝達物質など多様な生体分子が内包されるが、EMVs が輸送する分子は細菌種や生育環境により異なることが知られている。EMVs は細菌の接着や感染といった多様な微生物機能を制御することが知られており、細菌の生存戦略において重要な役割を担う機能であると考えられている。一方で、 EMVs を利用したタンパク質分泌生産系や、EMV 表層に任意のタンパク質を提示したワクチンおよび EMVs を担体として酵素を提示したナノリアクターの開発が期待され、生物工学分野においても注目を集めている。本研究では、EMVs を活用した異種タンパク質生産の宿主としての応用が期待される EMVs 高生産性細菌 Shewanella vesiculosa HM13 を対象に、本菌の EMVs を介したタンパク質輸送機構に着目した。本菌は、大腸菌や Pseudomonas 属細菌、近縁の Shewanella 属細菌と比較して、EMVs を顕著に高生産し、その生産性は他の細菌種の 10 倍である。また、本菌の EMVs には機能未知タンパク質がほぼ単一の主要な積荷として輸送されていた。積荷タンパク質 (P49) をコードする遺伝子の周辺には、タンパク質輸送装置のサブユニット遺伝子や表層多糖の生合成や修飾、その他機能未知の遺伝子が存在した。これらの遺伝子破壊の結果から、積荷タンパク質 P49 は、上流遺伝子群でコードされるタンパク質輸送装置により、細胞表層に輸送され、細胞表層において表層多糖との相互作用により EMVs に導入されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ユニークな細胞外膜小胞 (EMVs) を高生産する Shewanella vesiculosa HM13 の積荷タンパク質輸送機構に着目した。その結果、従来の知られている細菌の外膜小胞へのタンパク質輸送とは異なり、EMVs 表層との相互作用によって、積荷タンパク質が取捨選択されている可能性が示されてた。本成果は、他に類例のない EMVs を生産する本菌から見いだされた新たなタンパク質輸送機構と考えられ、本申請課題はおおむね順調に進展しているといえる。一方で、従来予想されていた細菌の表層膜における側方拡散や、ペリプラズム空間からの積荷タンパク質の取り込みとは異なっていたことから、先述の結果の検証に時間を要していることから、計画以上の進展とはいえず、(2) 「おおむね順調に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究結果から、本課題で対象としている細胞外膜小胞(EMVs)高生産性細菌 の細胞表層多糖を介した選択的な積荷タンパク質輸送機構の存在が示された。また、eGFP をレポーターとした融合実験により、積荷タンパク質 P49 は融合タンパク質を EMVs に輸送するキャリアーとして機能することがあきらかとなっている。以上の結果に基づき、本菌の表層糖鎖を介した EMVs へ積荷タンパク質輸送を活用した異種タンパク質生産系の開発を試みる。先の eGFP を融合した組換えタンパク質は EMVs に輸送されたものの、その生産性や EMVs への輸送効率は天然型積荷タンパク質に比べて低下していた。したがって、効率的な EMVs への異種タンパク質輸送を目指し、融合タンパク質の挿入部位および融合タンパク質を検討する。分子質量や疎水性度の異なるタンパク質を P49 の N 末端、および C 末端に融合し、融合タンパク質について EMVs への局在性への影響を解析する。さらに、融合タンパク質が輸送された EMVs については、融合タンパク質の活性や二次構造を解析することで、EMVs 表層での構造と機能への影響を評価する。また、積荷タンパク質の N 末端領や C 末端領域、および内部領域それぞれを抽出し融合タンパク質を導入することで、EMVs への輸送に必要なドメイン領域の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため、本課題を担当する学生の研究開始が本来予定していた時期より 2 ヵ月遅れ、参加予定の学費がオンライン開催となった。また、当初海外より輸入予定のプラスミド遺伝子の配送遅延のため次年度使用額が生じたことから、次年度使用額が生じた。
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