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2020 年度 実施状況報告書

慢性的DNA損傷ストレス耐性におけるリボソームの役割

研究課題

研究課題/領域番号 20K05790
研究機関学習院大学

研究代表者

赤沼 元気  学習院大学, 理学部, 助教 (30580063)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードリボソームタンパク質 / サプレッサー / 染色体異数化
研究実績の概要

DNA損傷ストレスが出芽酵母のリボソームに与える影響を調査するため、DNA損傷剤であるMMSを培地に添加した際のリボソーム複合体形成状態と、リボソームタンパク質の構成変化を観察した。低濃度のMMS(0.005%)を添加した条件では複合体形成に影響は見られなかったが、0.03%までMMS濃度を増加させた場合、細胞内翻訳活性の指標となるポリソーム量の減少が認められた。その一方で80Sを含むリボソームの総量は大きく低下しなかったことから、DNA損傷ストレス条件下ではリボソームが翻訳抑制制御を受けることが示唆された。そこでリボソームの複合体形成に影響が見られた条件において、リボソームタンパク質の構成変化を二次元電気泳動で検出しようと試みたが、DNA損傷ストレスの有無に関わらず、リボソームタンパク質の泳動パターンに大きな変化は認められなかった。しかし、検出されたタンパク質スポットのMALDI-TOF/MSによる解析から、DNAストレス条件下では、パラログタンパク質と入れ替わるリボソームタンパク質が存在する可能性が示された。
上記の解析とは別に、出芽酵母の遺伝子破壊株ライブラリーを用いてリボソームタンパク質欠損株のMMS感受性を調査した結果、L42Bを含むいくつかのリボソームタンパク質欠損株で影響が認められた。そこでL42B欠損株についてさらに解析を進めたところ、ライブラリーのL42B欠損株には増殖速度を回復させるサプレッサー変異が含まれていたこと、およびサプレッサー変異によってMMS感受性が引き起こされていたことが判明した。このサプレッサー変異にはL42BのパラログであるL42A発現量を促進し、リボソーム量を回復させる効果が認められた。さらに詳細なゲノム解析から、サプレッサー変異がL42A遺伝子を含む14番染色体の異数化であることが分かった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

既存のCLUV条件下において破壊株ライブラリーを用いたスクリーニングを試みたが、リボソームタンパク質欠損による増殖への影響は認められなかったため、本研究に適した線量率を検討している。その一方で、1-2年目に検証を予定していた以下の3つの課題については、MMS存在下で検証を終えているものもあり、おおむね順調であると言える。
1.DNA損傷ストレスがリボソームの複合体形成状態に与える影響;出芽酵母のリボソーム複合体形成状態を観察するため、培養時間、菌体量、破砕条件、遠心条件をそれぞれ検討し、40S、60Sサブユニットと80Sサブユニット、ポリソームを同時に観察可能な条件を設定した。その上でMMS添加時には、非添加時と比較してポリソーム量が低下することを見出した。
2.DNA損傷ストレスによるリボソームタンパク質の構成変化解明;出芽酵母から80Sとポリソームフラクションをそれぞれ調製し、二次元電気泳動にて明瞭な泳動パターンを得ることに成功した。MMS添加・未添加の条件で培養した細胞から調製したリボソームに含まれるタンパク質の泳動パターンに大きな差は認められなかったものの、質量分析の結果から、DNA損傷ストレスによってリボソームタンパク質のパラログ同士が入れ替わる可能性が示された。
3.遺伝的スクリーニングによるDNA損傷ストレス耐性因子の同定;出芽酵母遺伝子欠損株ライブラリーを用いて、116種のリボソームタンパク質遺伝子欠損株のMMS感受性を評価し、L42B欠損株を含む複数の欠損株で影響が認められた。これを受けてL42B欠損株を再度作製し、ライブラリーのL42B欠損株には増殖速度を回復させるサプレッサー変異が含まれていることを発見した。このサプレッサー変異はL42A遺伝子を含む14番染色体の異数化であること、それによってDNA損傷剤への耐性が低下していることが判明した。

今後の研究の推進方策

1.リボソームタンパク質欠損株に影響を及ぼすCLUV条件の設定とスクリーニング;既存のCLUV条件よりも高い線量率で、野生株の増殖には影響を示さないが、DNA損傷修復に重要な機能を果たす遺伝子欠損株の増殖を著しく阻害する条件を設定する。その条件下で遺伝子の欠損が増殖に影響を与えるリボソームタンパク質を探索する。
2.異数化によるリボソームタンパク質欠損の相補とその意義について;染色体の異数化によるリボソームタンパク質パラログ遺伝子の機能相補についてはこれまでほとんど報告が無い。リボソームタンパク質遺伝子に変異が発生すると細胞増殖速度は著しく低下するが、異数化によるパラログ遺伝子の重複は増殖速度を回復させ、生存競争に有利に働く。このシステムは、出芽酵母にリボソームタンパク質のホモログ遺伝子が多数存在する意義の一つであると予想されるため、以下の点について検証する。(1)L42B遺伝子機能を変異導入によって欠損させた場合においても異数化による機能相補は起こるか。(2)パラログ遺伝子間の組換えにより、変異遺伝子が機能を再び獲得できるか。(3)リボソームタンパク質遺伝子の機能欠損によって異数化の頻度は変化するか。
さらに、L42B以外のリボソームタンパク質欠損株でも、異数化による機能相補が起こり得るのかを検証する。まずは遺伝子欠損ライブラリーから増殖速度の回復したサプレッサー変異株を探索し、パラログ遺伝子を含む染色体の異数化を確認する。

次年度使用額が生じた理由

購入を予定していた「トライアックス・フローセルモニター(FC-1)」について、分光光度計とデータロガーの組み合わせによる代用に成功し、今年度の購入を見送ったため、次年度使用額が生じた。次年度は当初の計画に加え、パルスフィールドゲル電気泳動や、RT-qPCRを行う必要があるため、これらの試薬購入などに充てる予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2021

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] Evolution of Ribosomal Protein S14 Demonstrated by the Reconstruction of Chimeric Ribosomes in Bacillus subtilis2021

    • 著者名/発表者名
      Akanuma Genki、Kawamura Fujio、Watanabe Satoru、Watanabe Masaki、Okawa Fumiya、Natori Yousuke、Nanamiya Hideaki、Asai Kei、Chibazakura Taku、Yoshikawa Hirofumi、Soma Akiko、Hishida Takashi、Kato-Yamada Yasuyuki
    • 雑誌名

      Journal of Bacteriology

      巻: 203 ページ: e00599-20

    • DOI

      10.1128/JB.00599-20

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] A Conserved Histone H3-H4 Interface Regulates DNA Damage Tolerance and Homologous Recombination during the Recovery from Replication Stress2021

    • 著者名/発表者名
      Hayashi Masafumi、Keyamura Kenji、Yoshida Asami、Ariyoshi Mariko、Akanuma Genki、Hishida Takashi
    • 雑誌名

      Molecular and Cellular Biology

      巻: 41 ページ: e00044-20

    • DOI

      10.1128/MCB.00044-20

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Magnesium depletion extends fission yeast lifespan via general amino acid control activation2021

    • 著者名/発表者名
      Ohtsuka Hokuto、Kobayashi Mikuto、Shimasaki Takafumi、Sato Teppei、Akanuma Genki、Kitaura Yasuyuki、Otsubo Yoko、Yamashita Akira、Aiba Hirofumi
    • 雑誌名

      MicrobiologyOpen

      巻: 10 ページ: e1176

    • DOI

      10.1002/mbo3.1176

    • 査読あり

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公開日: 2021-12-27  

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