研究課題
シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803は世界で4番目に全ゲノムが決定された生物であり、光合成研究のモデル生物として研究に用いられてきた。Synechocystisは主染色体の他に長さ40 kbp以上の巨大プラスミドを4つ(pSYSM、pSYSX、pSYSA、pSYSG)有しているが、これら巨大プラスミドの維持機構は不明である。一般的にプラスミドのDNA複製の開始はプラスミドにコードされるRepタンパク質により制御される。一方、申請者はSynechocystisにおいて染色体にコードされたRep様タンパク質(CyRepX)を見出し、CyRepX欠損株のゲノムにおいて巨大プラスミドの一つpSYSXと染色体の融合を検出した。本申請研究ではシアノバクテリアの巨大プラスミドの維持機構の解明と、これを利用した大規模ベクターシステムの構築を目指して研究を進めている。これまでの実績として、10 kbp以上の長鎖DNA配列情報を大量に取得できるナノポアシーケンサーを用いてSynechocystis野生株のゲノムをリシーケンスし、ゲノム配列情報を整備した。また、シーケンス情報から巨大プラスミドと染色体との融合を解析するためのプラットフォームを構築した。巨大プラスミドの一つpSYSAにコードされるRep様タンパク質CyRepAについて、欠損株を複数クローン取得した。Mate-pairシーケンスにより、ゲノムの構造を解析した結果、いずれのクローンもpSYSAの構造異常が起こっていることが示された。また一昨年度に作製したSynechocystisゲノムライブラリーを用いて、シアノバクテリア細胞内において自律複製活性を有する領域のスクリーニングを実施した。ライブラリー形質転換体をNGSを用いて網羅的に解析することにより複数の自律複製候補領域を同定した。
2: おおむね順調に進展している
新たにナノポアシーケンサーを用いてSynechocystisのゲノム構造の解析手法を確立し、Synechocystisの自律複製に関わると考えられる領域のスクリーニングができたため。また、SynechocystisのCyRepA破壊株に関して、すでに同定していた箇所とは別の領域との融合を示す、新たなデータを取得することができたため。巨大プラスミドpSYSAのDNA複製、およびCyRepAに関しては、ドイツ・フライブルク大学のWolfgang Hess教授との共同研究で進めている。今後の研究の進展が期待できる。
これまでに整備した染色体の構造解析プラットフォームを用いてCyRepX破壊株における「縮小したpSYSX構造」について解析を進める。またCyRepAがpSYSAのRepとして機能するという確証が得られたため、CyRepA破壊株の増殖曲線や、pSYSAの構造など、論文として発表するために必要なデータを取得する。また、Synechocystis細胞内において自律複製活性を示す領域のスクリーニングより得られたクローンについて、GFPなどのレポーターを組み込んだシャトルプラスミドにクローニング、これをシアノバクテリアに形質転換し、候補領域が自律複製活性を有するか確認する予定である。
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J Bacteriol
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eLife
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