カンピロバクター菌の酸耐性メカニズムの解明を目的に始めた研究である。研究当初の一つの柱であった実験室進化を2年間継続して検討したが、酸に対して安定して耐性化した進化株の取得は叶わなかった。そこで、環境変化の感知に大きな役割を果たすと考えられている二成分情報伝達系と酸を含むストレス耐性について検討を進めた。R4年度には、カンピロバクター菌標準株である NCTC11168 株を親株としてヒスチジンキナーゼセンサー7種とレスポンスレギュレーター10種(全12種であるが2種は増殖に必須である)に対して破壊株の構築を完成させた。これらの破壊株を浸透圧、塩、乾燥ストレスに曝し、その感受性を親株と比較した。その結果、CbrR と FlgR が塩酸と酢酸に対する耐性化に、RacRS が浸透圧、塩酸、酢酸、ギ酸に対する耐性化に関与することを見出した。また、乾燥ストレスに対しては RacR、FlgR、RecJ が耐性化に関与していた。破壊株の結果を確認するために、それぞれの破壊遺伝子に対して相補する株を構築してストレス試験を行ったところ、RacS 以外ではストレス耐性に対する回復が認められ、各因子のストレス耐性に対する関与を確認した。RacS に関しては、膜タンパク質であるため、発現量が機能に影響したものと考察し、更なる検討が必要だと判断した。今後、多種類のストレスに対する耐性化に関与した RacRS 系に関して、転写解析を含むデータを揃え、学術論文にまとめる予定である。また、当研究グループは二成分情報伝達系の阻害剤の開発も行っていることから、RacRS 系を標的とした阻害剤の作用も検討していく予定である。
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