研究課題/領域番号 |
20K05797
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
広岡 和丈 福山大学, 生命工学部, 教授 (20389068)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 枯草菌 / タンパク質発現 / ラムノース / フラボノイド / T7 RNAポリメラーゼ |
研究実績の概要 |
昨年度は、フラボノイド応答性プロモーター (PqdoI) を改変したシングルコピーでのフラボノイド誘導発現系と、ラムノース応答性プロモーター (PrhaEW) とT7 RNAポリメラーゼ遺伝子 (T7 pol) を利用した目的遺伝子 (として用いたegfp) がマルチコピーのラムノース誘導発現系を作製した。フラボノイド誘導発現系では誘導条件での発現量が少なく、発現制御の厳密性も低下していた。ラムノース誘導発現系では非誘導条件でもEGFPが顕著に発現しており、ラムノース添加時との有意差がみられなかった。今年度はこれらの発現系の改良と評価を行った。 フラボノイド誘導発現系に関して、昨年度のラムノース誘導発現系と類似のT7 polを利用した発現系を作製した。すなわち、PqdoIの下流にT7 polを連結して枯草菌染色体に組み込み、さらにT7プロモーターとegfpとの連結をもつプラスミドを導入することでマルチコピー発現系を作製した。この発現系をもつレポーター株をフラボノイド存在・非存在下で培養し、蛍光測定とSDS-PAGEによってフラボノイド応答能と各条件での発現量を評価した結果、フラボノイド非存在下でEGFP発現はほぼ完全に抑えられ、フラボノイド添加で得られた発現量はこれまで作製したフラボノイド誘導発現系の中で最大となった。 ラムノース誘導発現系に関して、作製したT7 polを利用した発現系をもつ各レポーター株のうち、誘導物質が蓄積するようにrhaEW遺伝子の破壊を導入したものの中から、ラムノース含有固体培地でEGFPを際立って高発現する自発変異株が単離された。これらをラムノースまたはグルコースを炭素源に用いて培養して蛍光測定とSDS-PAGEを行った結果、グルコース存在下でもEGFPが相当量発現していたが、ラムノース存在下で発現量の更なる増加が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度と今年度で作製したPrhaEWとT7 polを用いた発現系では、ラムノース応答性プロモーターであるPrhaEWまたはこれを改変した構築の下流にT7 polが連結されて染色体に組み込まれ、目的遺伝子 (本研究ではegfpを使用) はプラスミド上のT7プロモーター下流に挿入されている。ラムノースによる目的遺伝子の発現誘導はT7 RNAポリメラーゼを介して行われ、目的遺伝子をマルチコピーにして強力なT7プロモーターの制御下に置くことで誘導条件での高発現が期待された。また、誘導物質を蓄積させるために、ラムノース異化オペロン内のrhaEW遺伝子をインフレーム欠失させた菌株も宿主として用いた。予想に反して、これらのレポーター株ではラムノース特異的に誘導されることはなく、ラムノース非添加でも高いEGFP発現を示した。この理由として、PrhaEWとその改変型のプロモーター強度がT7 polの制御を担うには強過ぎたこと、微量ではあるが胞子形成期に枯草菌内でラムノースが生成してT7 polを誘導したことが考えられた。 この誘導発現系のPrhaEWを別の誘導型プロモーターに置換することで各種誘導物質によるT7 polの制御が期待される。実際、フラボノイド応答性プロモーターであるPqdoIに置換した誘導発現系では、フラボノイドによる厳密な制御と高い発現量の両立を達成できた。しかしながら、誘導時の発現量の更なる向上が求められる。今後、T7 polの制御を担う誘導型プロモーターの探索と評価を試みるつもりであるが、当初予定していた枯草菌フェロモンに応答するプロモーター (PsrfA) はプロモーター強度が非常に高いので、この誘導発現系には使用できないと考えられた。また、計画していたラムノース特異的誘導発現系の作製には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度作製したT7 polを利用したフラボノイド誘導発現系は、明確なフラボノイド特異的発現誘導を示したが、誘導時の発現量の更なる向上を目指す。方策としては、昨年度作製したシングルコピーでのハイブリッド型フラボノイド誘導発現系での知見をもとに、コアプロモーター領域の最適化、コアプロモーター上流域とSD配列を高効率のものへの置換を行い、得られた誘導発現系の評価を行う。昨年度の構築では、フラボノイド応答性転写因子 (LmrA/QdoR) の結合部位の保存塩基にも変異を導入しており、これにより非誘導時の発現抑制が低下したと考えられたので、結合部位の保存を考慮した置換を行う。 ラムノース誘導発現系に関して、今年度作製したT7 polを用いた発現系では、ラムノースの有無でレポーターであるEGFPの発現量に違いはみられなかった。その原因の1つに内在性ラムノースが考えられたので、この合成に関わる遺伝子 (spsK) の破壊を宿主に導入してラムノース非添加での発現が抑制されるかを調べる。また、単離した自発変異株では、ラムノース添加によるEGFP発現の有意な増加が認められたので、その原因となる変異をNGS解析で同定する。 本研究で確立したT7 polを用いた誘導発現系は、誘導型プロモーターを置換することで各種誘導物質による制御が可能になる。候補プロモーターの特性として、適度なプロモーター強度、非誘導条件での完全な抑制、誘導物質が内在しないことが考えられた。枯草菌のペクチン代謝に関わるオペロンのプロモーター (PrhiL) はペクチンの構成成分 (RG-I) によって誘導される。ペクチンは植物由来で枯草菌は合成せず、毒性もなく、比較的安価であるので、本研究の誘導発現系の誘導物質として相応しい。PrhiLをT7 polを用いた発現系に導入することでペクチン誘導発現系の作製と評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬と器具の購入が予定よりも少なかった。また、出張費の使用がなかった。翌年度分と合わせて物品費・論文投稿費等に使用する。
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