微生物は生育環境中の栄養源、ストレス源などの濃度変化を感知し、増殖や生存のため遺伝子・タンパク質の発現量を増減させる。そのメカニズムを追求していくと、どのタンパク質が関与しているのか?については分かってくる。では、それらのタンパク質はどのように物質濃度を感知しているのか?その感知した情報をどのように発現レベルにつなげているか? 発現制御の分子メカニズムは、いわばブラックボックスとなっているものが多く、微生物の応用を妨げる一因ともなっている。このブラックボックスの解明には、タンパク質分子レベルの研究が不可欠である。本研究は、これまでの微生物学を含む農学研究であまり用いられることがなかった放射光の測定技術を積極的に導入し、分子レベルの微生物の発現制御メカニズム解明にアプローチする。そのための研究ターゲットとして、麹菌の4種の転写因子、AmyR、MalR、CreA、FlbCを選び、機能解析、構造解析を目指す。 2022年度までの取り組みとして、FlbCについて、機能解析、構造解析を目指して大腸菌による発現系の構築を試みた。大腸菌で発現したFlbCは1リットル培養当たり1ミリグラムに満たず、結晶構造解析に供するためには不十分であった。2023年度は発現条件、精製条件を検討し、特に培地条件を精密化することで、大腸菌1リットル培養当たり12ミリグラムのタンパク質獲得に成功した。結晶化を試みたところ、ポリエチレングリコールを沈殿剤とした条件で結晶が得られたが、放射光を利用したX線回折測定の結果、塩の結晶であることが分かった。一方、精製FlbCはゲルシフト電気泳動解析により、DNAに結合する機能を有していることが確認することができた。微生物転写因子タンパク質はリコンビナント発現・精製が難しいが、リコンビナントFlbCが得られたことにより、今後、機能解明が進むことが期待される。
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