研究課題/領域番号 |
20K05803
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古園 さおり 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (90321760)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ピルビン酸デヒドロゲナーゼ / 2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ / Corynebacterium / アセチル化 / グルタミン酸生産 |
研究実績の概要 |
Corynebacterium glutamicumのピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)と2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ(ODH)は、他生物種では例を見ないユニークなハイブリッド酵素複合体として存在する。本年度は、E2サブユニットのPSBDドメインに見出されたアセチル化部位(Lys391)の機能解析を進めた。PSBDドメインはE1およびE3サブユニットが結合する部位であり、その修飾や変異はサブユニット会合さらには活性に影響を及ぼすことが予想される。アセチル化模倣置換体(K391Q)ではE1pおよびE3サブユニットに対する結合が低下していることをプルダウンアッセイとゲルろ過クロマトグラフィーを用いた解析により明らかにした。一方で、E1oサブユニットに対する結合には影響がなかった。また非アセチル化模倣置換体(K391R)ではK391Qに比べてサブユニット結合への影響は少なかった。次に、K391QまたはK391R置換を有するC. glutamicumより調製したライゼートを用いて酵素反応パラメータを算出したところ、K391QではPDHおよびODH反応のVmaxが低下しており、PDH反応への影響がより大きかった。以上の結果から、Lys391はE1pおよびE3サブユニットの結合に重要な残基であり、そのアセチル化はPDH活性を優先的に阻害することが示唆された。興味深いことに、K391R株では10-20%のグルタミン酸生産の上昇が観察されていた。K391R型では野生型よりもピルビン酸に対するKm値が低下しており、一方でPDH反応のVmaxは野生株より低いものの維持していた。このことから、K391R株では低濃度ピルビン酸に対するPDH反応性が上昇していると考えられ、そのことがクエン酸回路への炭素フローとグルタミン酸生産の増加に繋がったと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画(c) PSBDドメイン変異の解析について、PSBDドメインに位置するアセチル化部位の機能を明らかにし、そのアセチル化の意義やグルタミン酸生産に与える影響を明らかにし、論文として報告した。当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、E1pおよびE1oサブユニットの未知機能の解明に向けて取り組む。これらのサブユニットは細胞内でE2サブユニット以外の未知タンパク質と相互作用あるいは自身で多量体形成する可能性が示唆されている。相互作用タンパク質の同定や多量体の構造解析を実施し、PDHおよびODH活性調節に関わる未知のメカニズムや本来のPDHおよびODH複合体を超えた生物学的役割を明らかにし、ユニークなPDH-ODHハイブリッド複合体の全貌を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で成果発表のための旅費の支出が大幅に抑えられた。次年度は構造解析に向けた結晶化スクリーニングを実施することを計画しており、結晶化関連試薬などの購入を計画している。
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