タンパク質翻訳後修飾と制御タンパク質との相互作用により複雑に活性調節されることが示唆されているCoA transferase (CoAT)について、その制御機構の詳細を明らかにするため結晶構造解析に取り組んだ。X線結晶構造解析でのCoATと制御タンパク質の複合体の構造決定には至っていないが、NAD+やNADHを結合する制御タンパク質はアポ型に加え、NAD+結合型の結晶構造を決定し、NAD+の結合に伴い構造変化が生じることが明らかとなった。またCoATと制御タンパク質間の相互作用様式について調べたところ、NAD(H)存在下においてCoATと制御タンパク質とのアフィニティが異なることが分かった。現在CryoEMを用いて複合体構造解析を進めており、二つのタンパク質間の相互作用様式およびNAD+結合による構造変化について明らかにしつつある。 T. thermophilusに4つ存在するアシルCoA合成酵素(ACS)ホモログについては、ACS活性を持たずACSドメインに加えて転写因子ドメインを持つACS2に着目して研究を進めた。qRT-PCRによるacs遺伝子の発現レベルの解析を行ったところ、ACS2が酵素活性をもつACSホモログの培地条件依存的な転写誘導に関与することが明らかとなった。様々な工夫の末、転写因子ドメインをコードする遺伝子を大腸菌のコドンに最適化させた人工遺伝子を用いて本ドメインのみの組換えタンパク質の取得に成功し、実際にacsホモログ遺伝子の上流に結合することを見出した。さらに、ACS2の結晶化に成功し、ACS2のACSドメインの反応中間体との複合体の結晶構造を決定でき、この反応中間体がACS2による遺伝子発現制御におけるエフェクターとして機能する可能性が示唆された。
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