研究課題
本研究においては、申請者がこれまでの研究過程で見出した翻訳促進新生鎖であるSKIKペプチド配列の翻訳促進作用について、そのメカニズムを明らかにし、タンパク質を簡単かつ大量に生産するための基盤技術を構築することを目標とした。これまでに、大腸菌で難発現なタンパク質のN末端にSKIKペプチドを挿入すると、その発現量が増大し、転写ではなく翻訳レベルが向上することが分かっていたが、その詳細な理由は不明であった。そこで、まず、SKIKをコードするコドンの影響を調べた。最後のKを除くSKIの全てのコドンパターンを網羅する変異体を作製し、大腸菌のin vivoおよびin vitroの系で発現実験を行いタンパク質を定量したところ、いずれのコドンパターンにおいてもペプチド非挿入のコントロールと比較しタンパク質生産量が顕著に増大し、それぞれに有意差は認められなかった。このことから、SKIKをコードするコドンは、タンパク質生産量に影響しないことが明らかとなった。また、転写・翻訳を独立した条件で行い、それぞれの産物量(すなわち、mRNAとタンパク質)を比較したところ、SKIKの付加は、転写には影響を与えず、翻訳産物量を増大させた。そして、大腸菌において翻訳を停止させることの知られる様々なアレストペプチド(AP)とを融合した遺伝子を作製し、大腸菌無細胞タンパク質合成系により発現させ、SKIKペプチドがAPによる翻訳停止に対しどのように作用するか詳細に検討した。その結果、アレストペプチドの直前にSKIKを挿入した場合、APによる翻訳停止が打ち消され、全長のタンパク質合成量が増大することが明らかとなった。また、SKIKの位置はN末端でなくても良いことも明らかとなった。以上より、翻訳で生じた新生ペプチドとしてSKIKという配列がその後の翻訳工程を正に制御するという新しい科学的知見が得られた。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 299 ページ: 104676~104676
10.1016/j.jbc.2023.104676