研究課題/領域番号 |
20K05808
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
竹中 慎治 神戸大学, 農学研究科, 教授 (40314512)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Aspergillus / 好乾性糸状菌 / 鰹節 / 脂質分解酵素 |
研究実績の概要 |
鰹節のかび付け発酵工程において、脂質分解酵素は、節に含まれる脂質の油焼けの防止(保存性向上)だけでなく、削り節から澄んだだしの素を得ることにも寄与する鍵酵素である。先行研究によって、鰹節カビが種々の脂質分解酵素を分泌生産することが明らかとなっているが、同定されている酵素群の触媒化学的諸性質や低水分活性下での活性発現や安定性についてはいまだ不明である。Aspergillus chevalieriおよびA. pseudoglaucus由来8種類のリパーゼ/カルボキシエステラーゼについて低水分活性環境下での脂質分解特性を明らかにするために、同脂質分解酵素の異種発現と特性解析を目的とした。 親株2種から8種の遺伝子をクローニングし、酵母および大腸菌の発現系にて組換え酵素の取得を試みた。既報の方法を参考に、形質転換株の培養および発現誘導を行い、得られた組換え酵素 (粗酵素) の加水分解活性を調べた。現段階では、rcLip 3以外の5種の組換え酵素の異種発現が完了した。これらの組換え酵素を精製し、p-nitrophenyl (pNP) エステルに対する加水分解特性を調べた結果、pNP -C2や-C4といった短鎖基質を好んで高い加水分解活性を示すグループ(3種)とpNP-C6~-C12等の中長鎖基質に対して幅広く高い加水分解活性を示すグループ(2種)に大別できた。つづいて、酵素反応系の水分活性を変化させた条件で活性に与える水分活性値の影響を調べた結果、2種の組換え酵素は、水分活性が低下するとともに加水分解活性は増大した。鰹肉由来脂質の分解特性を今後調べる必要があるが、見出した脂質分解酵素の中から低水分活性環境下で脂質分解に寄与するリパーゼ/カルボキシエステラーゼを見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鰹節のかび付け発酵工程において、脂質分解酵素は、節に含まれる脂質の油焼けの防止(保存性向上)だけでなく、削り節から澄んだだしの素を得ることにも寄与する鍵酵素である。研究目的および計画の一つである研究室保有鰹節カビ(Aspergillus amstelodami, A. chevalieri, A. pseudoglaucus, A. ruber, A. sydowii)が生産する脂質分解酵素の生産特性、部分精製酵素の魚油に対する加水分解特性および同遺伝子の解析を行った。5種の菌株由来脂質分解酵素群(部分精製酵素)は、人工基質に対する活性には相違が見られるが、魚油(Cod liver oil)の分解特性は類似していた。粗酵素液をDEAE-Toyopearlで分画すると、p-nitrophenyl acylateに対する活性のクロマトグラムには種間で相違が見られた。魚油には、EPA(C20:5)やDHA(C22:6)が豊富に含まれているが、遊離脂肪酸にはC16:0、C16:1、C18:0、C18:1といった飽和および一価不飽和脂肪酸が多く含まれていた。また、見出した酵素遺伝子は既報のAspergillus属糸状菌由来脂質分解酵素とはidentityが低いことも明らかとなった。以上の成果をまとめてInternational Journal of Food Microbiology誌に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
① 脂質分解酵素の異種発現: 対象とした8種の脂質分解酵素の中で5種について活性体(組換え酵素)を得ることができた。残る3種についても発現条件等を検討する。 ② 人工基質を用いた酵素の特性解析: p-nitrophenyl acylateを用いて、加水分解にあたえる種々の影響(水分活性、pH、温度等)を調べる。 ③ 魚油に対する加水分解特性の解析: Cod liver oilを用いて、加水分解を行い、遊離した脂肪酸の組成や構成比をGCMSを用いて明らかにする。 ④ 鰹節の発酵熟成に関わる脂質分解酵素の特定: ②および③にて得られた成果を基に、8種の脂質分解酵素の中からいずれの酵素が魚油の分解に関わるか考察する。 ⑤ 得られた成果について、原著論文にて報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年6月下旬ごろから始まったコロナウイルス流行(第5波)の関係で、実験計画を一部見直すことになったため、使用額に差が生じた。
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