本研究では、イネいもち病菌Pyricularia oryzaeを中心とした共生糸状菌を対象に、新しいタイプの二次代謝酵素を活用した化合物発掘及び二次代謝活性化による化合物発掘を行い、二次代謝産物の役割を解明するための基盤研究を行った。 本年度は、(3) 共生糸状菌の宿主を用いた二次代謝産物の役割の解析において、イネいもち病菌の感染時に発現誘導される二次代謝遺伝子クラスター3個の鍵遺伝子の破壊株を作製し、そのうちの一つが感染に関与することを見出した。研究期間全体で、(1) 新しいタイプの二次代謝酵素を活用した共生糸状菌からの化合物発掘では、グループAからDのTAS1ホモログが生産する化合物の構造と生合成メカニズムと生物活性を明らかにした。(2) 二次代謝活性化による共生糸状菌からの化合物発掘と活性化メカニズムの解析では、イネいもち病菌を含む糸状菌において二次代謝を制御する活性を持つ化合物NPD938を用いた解析を行い、ルシラクタエン生産菌Fusarium sp. RK97-94をNPD938で処理することにより、非常に強力な抗マラリア活性(IC50=1.5 nM)を示す新規のルシラクタエン類縁化合物化合物dihydrolucilactaene(DHLC)を取得することに成功した。(3) 共生糸状菌の宿主を用いた二次代謝産物の役割の解析では、イネいもち病菌の感染時に発現誘導される二次代謝遺伝子クラスターの解析を行い、テヌアゾン酸が感染後期に何らかの機能を持つことを示唆するデータを得た。 以上のように、共生糸状菌を用いた研究により、生物間相互作用に関与する二次代謝産物の発掘と、作用メカニズムの解明を通じて、糸状菌の共生メカニズムの理解を深めることができた。また、得られた知見をもとに、糸状菌と宿主の相互作用を特異的に制御する環境に優しい農薬や医薬の開発への応用が期待できる。
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