研究課題/領域番号 |
20K05823
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
浦山 俊一 筑波大学, 生命環境系, 助教 (50736220)
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研究分担者 |
竹下 典男 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (20745038)
豊福 雅典 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (30644827)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞外膜小胞 / メンブレンベシクル / 糸状菌 / 麹菌 |
研究実績の概要 |
生物が細胞外に産生する膜小胞(以下eMV)は、『細胞外への物質輸送』を担う新たな機構として認識されつつある。本研究では発酵菌に着目し、発酵菌の特性とeMVの関係性を明らかにすることを目指している。初年度は重要な発酵菌を含むAspergillus属菌に注目し、①菌種ごとのeMV産生能の評価、②麹菌のeMV産生に及ぼす培養条件の検討、③麹菌遺伝子のeMV産生に及ぼす影響の検討、を実施した。 複数の菌種について、液体培養条件下で経時的にeMVの培地中への蓄積を調査した。麹菌と数種の菌については対数増殖期と定常期にeMV(または脂質、下記参照)の蓄積が観察された。一方、他の菌種については対数増殖期の蓄積は見られず、定常期の蓄積のみが観察された。驚いたことに、麹菌については対数増殖期に脂質を多量に放出していたが、その脂質はeMVの形状を保持していなかった。麹菌がeMVを壊すような物質を放出しているわけではないことを確認できたことから、麹菌が対数増殖期に産生する脂質は小胞構造をとっていないことが示唆された。これらの結果から、対数増殖期と定常期のeMV産生機構は異なるものであることが示唆された。麹菌についてはeMV産生における②培養条件、③遺伝型、の影響についても解析を行った。その結果、培養温度や培地浸透圧がeMV産生量に影響を及ぼすことが明らかになった。いくつかの遺伝子欠損株を用いた解析においても、eMV産生量の変化が確認された。これらの結果は、麹菌のeMV産生は遺伝的背景が影響する現象であり、ある程度の制御ができる可能性があることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では糸状菌eMVに含まれる共通タンパク質の可視化や、人為的にeMV内に糸状菌産生物質を内包させることを目指している。共通タンパク質については既にその候補を取得済みであるが、可視化するための遺伝子操作を実施する前に、eMVのプロテオーム解析事例を増やすことで、共通タンパク質の確度を高める必要がある。今年度は複数の菌種についてeMV産生を経時的に調査することで、複数の精製eMV試料を取得することができた。また、麹菌の遺伝子欠損株を用いた解析ではeMV産生機構に関する情報を取得することができた。この知見は、目的産物をeMV内に封入させるシステムの構築設計に資するものである。既に、麹菌のeMV産生量を上昇させることにも成功しており、応用利用につながる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果として得られた複数の精製eMV試料を用いたプロテオーム解析を行うことで、共通タンパク質に関して確度の高い情報を得る。これを基盤として、GFP融合等の可視化を目指した実験を行う。また、遺伝子組換え酵素産生株も取得しており、当該菌株を用いてeMVを精製し、酵素が含まれているのかを確認する。eMVへのタンパク質の搭載における、シグナルペプチドの役割に関する知見も取得したい。糸状菌が産生する物質は酵素をはじめとするタンパク質だけでなく、様々な化合物も含まれている。eMVによるこれら化合物の輸送についてもその可能性が指摘され始めており、本研究で取得したeMV内にこれら化合物が含まれるのかどうかに関しても、タンパク質と並行した解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ渦の影響で大学での研究活動が制限された期間があり、当初想定していたよりも少ない予算使用額となったため、次年度使用額が生じている。次年度は、翌年度分として請求した助成金と合わせ、eMVに含まれるたんぱく質や化合物の解析を実施する。また、予定通り共通タンパク質のGFP融合化などの組換え実験も実施する。
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