研究課題/領域番号 |
20K05827
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
内海 俊彦 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (20168727)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | N-ミリストイル化 / 膜タンパク質 / ANKRD22 / Lipid droplet / ミトコンドリアタンパク質 |
研究実績の概要 |
主要なタンパク質脂質修飾の一つであるタンパク質N-ミリストイル化は、これまで可溶性の細胞質タンパク質に生じ、膜への可逆的な局在化を介して主として細胞情報伝達に機能することが知られてきた。しかし我々はこれまでに、ヒト細胞内に存在するN-ミリストイル化タンパク質の網羅的同定の試みを行なった結果、約40個ものN-ミリストイル化された膜貫通タンパク質が存在する事を明らかにした。本年度の研究では、昨年度の研究で解析を行った、大腸がん、非小細胞肺がんや乳がん組織での高発現が報告されているLipid dropletに局在するPro残基で屈曲したヘアピン状の膜貫通領域を有する膜タンパク質ANKRD22の細胞内局在、膜局在化機構及び膜上トポロジー形成機構の解析を継続して行った。その結果ANKRD22は、N-ミリストイル化と膜貫通領域の両方を介して膜結合していることが示された。また、その膜貫通領域中でヘアピン状に屈曲したmonotopic topologyの形成には膜貫通領域中に存在するPro残基の存在が必須であるが、Pro残基周辺のアミノ酸残基はトポロジー形成に影響せず、Pro残基が疎水領域中の中央付近に位置する必要があることが明らかになった。さらにこのPro残基で屈曲した構造は、タンパク質構造予測プログラムAlphaFoldを用いた構造予測においても明確に確認され、ANKRD22が膜貫通領域の中央に存在するPro残基で実際に屈曲し得ることがタンパク質構造からも明らかになった。また全ミトコンドリアタンパク質が収集されたMitoProteomeのアミノ酸配列情報をもとに、これまで確立した手法によりN-ミリストイル化タンパク質の網羅的同定の試みを行なった結果、45個の候補タンパク質が見出され、その中に多くの可溶性のタンパク質に加え、少なくとも複数のN-ミリストイル化された膜貫通タンパク質が存在することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、種々のがん細胞での高発現が認められるLipid dropletに局在するN-ミリストイル化された膜タンパク質であるANKRD22の膜上トポロジー形成について詳細な解析を行い、N-ミリストイル化と膜貫通領域の両方が膜結合に直接関与していること、その膜貫通領域の中央にPro残基が存在することが膜貫通領域中で屈曲した構造を形成するのに必要であることが明らかにされた。さらに全ミトコンドリアタンパク質が収集されたデータベースを用いた解析によりミトコンドリア中にこれまで我々が見出したTOMM40, SAMM50以外にN-ミリストイル化された膜タンパク質が複数存在することが示された。これらのデータは、これまで細胞質に存在する可溶性タンパク質に生ずると考えられてきたタンパク質が、種々のオルガネラに局在する膜タンパク質にも生じる修飾であることを明らかに示しており、本研究の当初の目的の一部が達成できたものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度の本研究においては、2021年度の研究の過程でミトコンドリア外膜や内膜に局在する膜タンパク質や膜間腔タンパク質がN-ミリストイル化されていることが新たに見出されたことから、これらのミトコンドリアタンパク質に生ずるN-ミリストイル化について、その細胞内局在、膜への組み込み、膜上トポロジー形成におけるN-ミリストイル化の役割について詳細な解析を行う。さらにこれらの結果を、これまでに我々が見出したSAMM50, TOMM40, という2つのミトコンドリア外膜タンパク質に生ずるN-ミリストイル化の解析で得られた結果と比較検討を行うことで、ミトコンドリアに局在する膜タンパク質に生ずるN-ミリストイル化の役割の全体像を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の予算の執行において、当初予定していた学会出張がコロナ禍の影響でオンライン開催となり、出張旅費の執行が無かったことや、修士学生の人数減少により予定していた実験が実施できなかったことなどの理由から次年度への繰越金が生じた。この予算は2022年度の消耗品費、論文掲載費等として有効活用する予定である。
|