研究課題/領域番号 |
20K05827
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
内海 俊彦 山口大学, その他部局等, 名誉教授 (20168727)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | N-ミリストイル化 / ミトコンドリアタンパク質 / NDUFB7 / ミトコンドリア電子伝達系 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでの研究から、通常可溶性の細胞質タンパク質に生じ、膜への可逆的な局在化を介して主として細胞情報伝達に機能することが知られてきたタンパク質N-ミリストイル化が多数の膜貫通タンパク質に生じていることを明らかにした。昨年度の本研究から全ミトコンドリアタンパク質が収集されたMitoProteomeのアミノ酸配列情報をもとに、これまで確立した手法によりN-ミリストイル化タンパク質の網羅的同定の試みを行なった結果、多数の候補タンパク質を見出した。 本研究ではこの中からミトコンドリアの電子伝達系複合体Iの形成に関与する2つのタンパク質NUDFB7とDMAC1についてN-ミリストイル化の有無とその機能について解析を行なった。その結果、いずれのタンパク質も細胞での過剰発現に伴いN-ミリストイル化されること、さらにN-ミリストイル化を阻害した変異体(G2A mutant)を用いた解析から可溶性タンパク質と考えられるNDUFB7ではミトコンドリアへの局在にN-ミリストイル化が必須であるのに対して膜貫通タンパク質と推定されるDMAC1ではミトコンドリアへの移行にN-ミリストイル化は必要ではないことが示された。またNDUFB7のミトコンドリアへの移行にはN-ミリストイル化に加えて、その配列中に存在するCHCH-ドメインを介したMIA経路によるタンパク質の酸化的折畳みが必要であることが示された。 これらの結果から、N-ミリストイル化が生じない原核生物由来の細胞小器官であるミトコンドリア内の多数のタンパク質にN-ミリストイル化が生じ、ミトコンドリア局在をはじめとする特異的機能を発現していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ミトコンドリアの電子伝達系複合体Iの形成に関与する2つのタンパク質NUDFB7とDMAC1がN-ミリストイル化されることを見出し、N-ミリストイル化を阻害した変異体(G2A mutant)を用いた解析から可溶性タンパク質NDUFB7ではミトコンドリアへの局在にN-ミリストイル化が必須であるのに対して膜貫通タンパク質DMAC1ではミトコンドリアへの移行にN-ミリストイル化は必要ではないことが示された。このことは、ミトコンドリアの膜貫通タンパク質と可溶性タンパク質ではタンパク質の細胞内局在におけるN-ミリストイル化の役割が異なる可能性を示しており、膜タンパク質に生ずるN-ミリストイル化の役割の解明を目的とした本研究の当初の目的の解明に一定の成果をもたらしたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究の過程でNDUFB7やDMAC1以外にもミトコンドリア外膜や内膜に局在する膜タンパク質や膜間腔タンパク質がN-ミリストイル化されていることが新たに見出された。そこで2023年度の本研究においては、これらのミトコンドリアタンパク質に生ずるN-ミリストイル化について、その細胞内局在や膜への組み込みにおけるN-ミリストイル化の役割について解析を行う。さらにこれらの結果を、これまでに我々が見出したSAMM50, TOMM40, DMAC1という3つのミトコンドリア膜タンパク質に生ずるN-ミリストイル化の解析で得られた結果と比較検討を行うことで、ミトコンドリアに局在する膜タンパク質に生ずるN-ミリストイル化の役割の全体像を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の予算の執行において、当初予定していた海外出張がコロナ禍の影響で開催が中止され、出張旅費の執行が無かったことや、退職に伴い研究室に所属する学生がいなくなり予定していた実験が実施できなかったことなどの理由から次年度への繰越金が生じた。この予算は2023年度の消耗品費、論文掲載費等として有効活用する予定である。
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