本研究では、担子菌(キノコ)の子実体形成誘導条件応答機構について理解し、キノコ生産への効果的応用を目指している。最終年度を含め研究期間内において、下記の結果や解析情報を得ることができた。 (1)エノキタケの子実体形成に必須な誘導条件(低温誘導)に応答して検出されるラッカーゼアイソザイムについて異種宿主発現系から組換え酵素を調製し、その諸性質について明らかにしてきた。また、本アイソザイムが同菌の子実体形成系へ及ぼす影響を解析するため、調製酵素液の添加効果について検討を行ってきた。しかしながら、固体培養系に対する添加状態の影響が大きいことが考察された。そこで、本取り組みについては、アプローチを変え、分子生物学的に本アイソザイムを宿主エノキタケ菌体内で過剰発現させるような株を構築し解析する方法に変更した。その結果、構築した本アイソザイム過剰発現株では、菌糸生育および子実体形成において、それらを促す傾向が観察され、同酵素をファクターとする成長促進効果を示唆することができた。 (2)エノキタケの「子実体形成誘導条件の付与前後」および「子実体形成株と形成不良株」のRNA-Seqの比較解析から、子実体形成に関わることが推測される遺伝子オルソログの情報を得ることができた。各遺伝子オルソログの子実体形成過程に与える影響については明らかにするには至らなかったが、モデル担子菌を対象に行ったCRISPR-Cas9システムを適用した遺伝子破壊解析の実施結果から、同システムを活用することにより各遺伝子オルソログの機能解明が効率的に進むものと考えられた。
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