研究実績の概要 |
β-1,2-グルカンやβ-1,2-グルコオリゴ糖は天然の希少な糖鎖である。そのため、この糖鎖に作用する酵素、特に分解酵素についての知見は非常に少なかった。その中で申請者は細菌、糸状菌由来β-1,2-グルカナーゼ(SGL)の遺伝子同定に成功したことにより、SGL遺伝子クラスターなどβ-1,2-グルカンの代謝に関わる酵素群の探索が可能となった。本課題ではその中で糖質加水分解酵素(GH)ファミリー1とGH35の酵素に着目し、その機能と構造を明らかにするとともに、これらを用いて環状β-1,2-グルカンの合成において環状化に必須の糖転移活性を測定するための比色定量法を確立することを目指している。
当該年度において、GH1酵素については、結合位置の異なる各種グルコオリゴ糖に対するカイネティックパラメーターを決定し、この酵素がβ-1,2-グルコオリゴ糖に対して高い活性を示し、β-1,4-結合、β-1,6-結合のグルコオリゴ糖に対してはほとんど活性を示さないことを明らかにした。また、この酵素の触媒残基の候補の変異体を作製し、その変異体において顕著に活性が低下することを示し、次年度にグライコシンターゼ活性を調べるために必要な準備が整った。 GH35酵素については、様々なグルコシド配糖体をアクセプター基質とした複合体構造の決定に成功し、グルコシド配糖体は好ましいアクセプター基質となる構造的要因を明らかにした。また、グルコシド配糖体を基質とした糖転移反応によって、β-1,2-グルコテトラオースがアグリコンに結合した配糖体の生成が質量分析により確認された。
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今後の研究の推進方策 |
GH1酵素については触媒残基を用いたグライコシンターゼ活性を調べる。フッ化グルコシドに対して活性が得られれば、フッ化ガラクトシドを用いてβ-1,2-グルコオリゴ糖に対する合成を試みる。また、基質との複合体構造の取得も試みる。 GH35酵素については1,2-β-オリゴグルカンホスホリラーゼと組み合わせ、グルコシド配糖体のグルコース部分からβ-1,2-結合を10糖程度以上伸長した配糖体を取得する。 この2つの酵素の反応を組み合わせてβ-1,2-グルコオリゴ糖の両末端がブロックされた目的の基質の合成を完成させる。
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