研究課題/領域番号 |
20K05832
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
梶川 昌孝 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (40594437)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 植物生理学 / 環境応答 / 栄養欠乏 / 藻類 / オートファジー / 細胞生存性 / タンパク質リン酸化酵素 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
本研究では、ハイスループットな変異株スクリーニングによる順遺伝学解析系が確立されたモデル緑藻クラミドモナスのatg変異株を活用し、植物界で先駆けて従来型オートファジーとは異なる新奇な細胞生存を制御する分子機構の包括的な解明を目指している。窒素欠乏条件においてオートファジー変異体(atg8)よりも早期に細胞死を起こす二重変異株(スーパーアーリーデス変異株; sed)を約5,000株の母集団から2株単離した。これらsed-1およびsed-2変異株はどちらも、DNAポリメラーゼ(pol)Ⅲ γ/τサブユニットと低い相同性を示すドメインを持つが機能未知の遺伝子の第3および第8エキソンにそれぞれDNAタグが順向きに挿入されていた。この因子は細胞生存性の維持に関与する新奇因子であることが期待される。本年は、この変異体の解析を進めるとともに、他のオートファジー変異体(atg9)をもとに約5,000 株の形質転換株より窒素欠乏、硫黄およびリン欠乏の計3 条件でのsed 変異株スクリーニングを進めた。その結果、もとのatg9変異体と比べてどの栄養欠乏条件においても生存性が早期に低下するsed変異体を新たに38系統単離することに成功した。これらの変異体の挿入変異遺伝子をTail PCR法により同定したところ、そのうち2つの系統(1C7および21B1変異株)ではそれぞれ異なるタンパク質リン酸化酵素遺伝子に変異を持つことを突き止めた。またそれぞれの遺伝子の野生型配列をsed変異体に戻したところ表現型が回復したことから、これらのタンパク質リン酸化酵素遺伝子はいずれも複数の栄養欠乏条件において細胞生存性の維持に必要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たに変異体スクリーニングを進め、早期細胞死変異株を38系統単離し、すべての系統の挿入変異遺伝子座位を同定した。その中から、それぞれ異なる機能未知のタンパク質リン酸化酵素遺伝子に挿入変異をもつ2つの変異体を選び出し、相補実験により、これらの遺伝子が変異原因遺伝子であることまで突き止めた。このように藻類の栄養欠乏での細胞生存性維持機構に重要な役割を果たす新規な制御因子候補を、順遺伝学的なアプローチにより複数得ることができ、今後の機能解析によりその詳細な機能について明らかにすることができると期待されることから。
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今後の研究の推進方策 |
1C7および21B1変異株の変異原因であるタンパク質リン酸化酵素の機能解析を進めるため、単独変異株の表現型を元の変異株およびatg9の表現型と比較する。そのためこれらの変異株を野生株と交配し、タンパク質リン酸化酵素遺伝子への挿入変異のみを持つ子孫株を選び出す。細胞内局在場所を実験的に調べるために蛍光タンパク質との融合タンパク質を発現させた可視化系統を作成する。また互いの変異原因遺伝子について二重変異株の作出と表現型解析、これらのタンパク質リン酸化酵素間の相互作用の有無、細胞内局在場所の重複を調べることで、同一の分子機構を構成しているか、別々の分子機構に属するものかを推定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大により参加予定していた学会がオンライン開催になっため、出張旅費が当初計画よりも小額となったため。次年度には物品費として新たに単離した変異体の解析費用に充当することを予定している。
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