研究課題/領域番号 |
20K05832
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
梶川 昌孝 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (40594437)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 植物分子生物学 / 栄養欠乏 / オートファジー / 藻類生理学 / 変異体解析 / タンパク質リン酸化酵素 / 細胞内シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
本研究では、ハイスループットな変異株スクリーニングによる順遺伝学解析系が確立されたモデル緑藻クラミドモナスを活用し、植物界で先駆けて従来型のオートファジー因子とは異なる新奇な細胞生存を制御する分子機構の包括的な解明を目指している。本年は、表現型の緩やかなオートファジー変異体(atg9)への更なる変異導入により選抜されたN・S・Pのいずれの栄養欠乏条件においても生存性が親株よりも早期に低下する変異体21B1変異株の解析を進めた。昨年度までに、この変異体ではタンパク質リン酸化酵素遺伝子21B1に挿入変異を持つことを明らかにしている。野生型との交配により、ATG9への変異と21B1遺伝子の変異を分離した。21B1遺伝子にのみ変異をもつ子孫系統の生存率に関する表現型は、元の21B1変異株と同等であった。このことから、21B1変異株における生存率低下の表現型にはATG9の変異は寄与せず、もっぱら21B1遺伝子への変異によるものであることが示唆された。21B1遺伝子に蛍光タンパク質Venus遺伝子およびFLAGタグを連結したプラスミドを構築し、21B1遺伝子の単独変異体に導入したところ、表現型の回復とともにFLAG抗体を用いたウェスタン解析において予想サイズにシグナルが見られた。このシグナルの強度は栄養欠乏条件の切り替えの前後で変化しなかったことから、21B1タンパク質の発現レベルは栄養欠乏による制御は受けていないことが示唆された。細胞内のVenus由来蛍光パターンの観察により細胞内局在の推定を進めたところ、収縮胞において特異的なシグナルが見られたことから、21B1タンパク質は収縮胞に局在することが示唆された。一方で、リン酸化活性に必須と推定されるリジン残基をメチオニン置換した変異型21B1遺伝子を21B1遺伝子の単独変異体に導入した場合には、変異表現型を相補しない結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
栄養欠乏条件での早期細胞死変異株21B1の単離とその機能解析により、栄養欠乏下での細胞生存性の維持に関与する新規なタンパク質リン酸化酵素遺伝子21B1遺伝子を見出した。21B1遺伝子の単独変異体を背景とした蛍光タンパク質との融合タンパク質発現による相補系統を用いた細胞内局在解析を行い、局在する細胞内小器官に関する知見を得ることができた。一方、組換えタンパク質を用いたリン酸化活性の評価については、組換え21B1タンパク質の精製に予想以上に時間がかかり、RIを用いたリン酸化アッセイを行ったがリン酸化活性の検出には至らなかった。組換え21B1タンパク質の品質が劣化したものと思われる。今年度、組換え21B1タンパク質の精製ステップを見直し、迅速な精製を試み、RIを用いたリン酸化アッセイに再度試みる予定である。以上のことから進捗状況について上記の通り評価した。
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今後の研究の推進方策 |
21B1遺伝子の機能解明のための更なる解析として、1. 大腸菌発現系を用いた組換えタンパク質の単離精製とそれを用いたタンパク質リン酸化活性のin vitroでの評価、2.FLAGタグ融合タンパク質発現系統を用いた免疫沈降またはFLAGタグ抗体ビーズによる相互作用因子の探索を同時並行的に推進する。これにより得られた機能解析データを元に論文投稿を行う予定である。既に、課題1のために、大腸菌発現用にコドン最適化した21B1遺伝子、リン酸化活性に必須と推定されるリジン残基をメチオニン置換した変異型21B1遺伝子の発現プラスミドを構築している。また、課題2のために、21B1-FLAG融合遺伝子を21B1遺伝子単独変異体に導入し、表現型の回復とともにFLAG抗体を用いたウェスタン解析において予想サイズにシグナルを確認した系統から総タンパク質を抽出している。以上のように次年度の研究のための準備状況は整っており、既に必要な研究を進行している。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、21B1遺伝子の機能解明のための解析として、課題1.大腸菌発現系を用いた組換えタンパク質の単離精製とそれを用いたタンパク質リン酸化活性のin vitroでの評価を推進したが、実験に放射性同位元素(RI)を用いる必要があり、大学内のRI施設を利用した。しかしながら年度途中から当該RI施設が改修工事のために使用停止となり実験が計画通りに進まなかった。また、課題2.FLAGタグ融合タンパク質発現系統を用いた免疫沈降またはFLAGタグ抗体ビーズによる相互作用因子の探索、においてはLCMS分析分析を行う必要があるが、解析対象とする系統の選抜に予想以上に時間を要した。本年度では課題1で使用するRI施設の改修は終わっており、課題2で用いる株の選定も終えたことから、研究遂行の環境は整っている。また、研究の遅れを取り戻すために、分子生物学実験と藻類培養実験の補助を担当する研究補助員を1名雇用する。
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