研究課題/領域番号 |
20K05833
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
浦野 薫 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (30391882)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乾燥ストレス応答 |
研究実績の概要 |
乾燥ストレス下でクチクラ形成関連遺伝子を制御するEDTFファミリーの解析を行った。これまでに、EDTF1形質転換シロイヌナズナを用いた分子生物学的解析を行い、EDTF1がクチクラ形成を制御し、植物の乾燥ストレス応答に必須であることを明らかにした。本年度はEDTFファミリーの遺伝子欠損変異体を用いて、EDTF1形質転換シロイヌナズナの解析で得られたクチクラ形成に関する制御機構に関して、EDTFファミリーの役割を再検証することを目的に進めた。シロイヌナズナに存在する3つのEDTFファミリー遺伝子の多重変異体を作出し、乾燥条件下での表現型や下流遺伝子の発現変化を解析した。edtf多重変異体は乾燥条件下で生育が抑制され、クチクラワックス合成に関わる酵素遺伝子群の発現が減少した。一方、ABA応答に関わる乾燥ストレス誘導性遺伝子群の発現が増加した。edtf多重変異体を用いた分子生物学的解析結果より、edtf多重変異体ではクチクラ形成が抑制され、表層の保護機能が低下した結果、外部の環境条件に高感受に反応していることが予想された。EDTFファミリーは乾燥ストレス下でABA非依存的にクチクラ形成を制御し、環境変化への適応に重要な役割を果たすことが示唆された。また、EDTFタンパク質の局在を調べるため、edtf多重変異体にGFPと融合したEDTF1を導入した形質転換シロイヌナズナを作出した。EDTF1は葉の表皮細胞において、核と細胞質に局在することが示された。クチクラ形成に関わるワックス合成過程は表皮細胞で行われることが報告されていることより、EDTF1のクチクラ形成への関与をサポートする結果が得られた。また、クチクラ強化植物の乾燥耐性への影響を調べるため、クチン合成遺伝子CYP77A6プロモーター下でEDTF1を発現させたシロイヌナズナを作成し、詳細な解析の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロイヌナズナに存在するEDTFファミリー遺伝子の多重変異体をゲノム編集により作成し、乾燥ストレス下での表現型や変動する遺伝子のトランスクリプトーム解析を行った。表現型解析の結果、edtf変異体では低水分条件下での生育が野生型と比べ抑制され、葉の水分含量が低下していた。edtf変異体のRNAseq解析の結果、野生型と比較し、edtf変異体ではクチクラ合成に関わるワックス合成関連遺伝子の一部が減少し、ABAや乾燥ストレス応答に関わる多くの遺伝子の発現が上昇していた。これらの結果より、EDTF遺伝子ファミリーが植物のクチクラ合成に関与し、乾燥ストレス下での植物の応答に必須でるあることが証明された。得られた結果は準備研究結果より想定した研究仮説と方向性が合致することから、引き続き研究計画を遂行し、さらに詳細な解析を進めることで、EDTFを鍵とする植物の乾燥感受のメカニズムの解明を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
今後はedtf変異体植物のワックス組成分析と電子顕微鏡による表層ならびにクチクラ層の構造観察を行い、EDTFファミリーが制御するクチクラ形成やワックス組成と乾燥ストレス応答との関係を考察する。また、GFP融合型EDTF1を導入した形質転換シロイヌナズナを用いて、クロマチン免疫沈降解析や共免疫沈降解析を行い、下流制御遺伝子の同定や相互作用因子の探索を行い、EDTFファミリーが鍵となる植物の乾燥感受の経路を上流から下流まで理解することを目指す。さらに、本年度作成したクチン合成遺伝子CYP77A6プロモーター下でEDTFを発現させたシロイヌナズナを用いて、乾燥ストレス応答やクチクラ形成に関わる詳細な解析を行い、クチクラ強化の乾燥耐性への影響を評価し、作物への応用の可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
検討していた国際学会への参加を社会的状況を鑑みて自粛し、研究発表した国内学会がオンラインで行われたため、旅費や参加費が執行されなかったことが次年度使用額が生じた理由と考えている。今年度も社会的な状況からオンライン学会の開催が予想される。旅費の執行額が少なくなる分、必要な設備備品費や消耗品費を充実させ、研究の効率化をはかりたいと考えている。
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