研究課題/領域番号 |
20K05838
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
奥 公秀 京都先端科学大学, バイオ環境学部, 准教授 (10511230)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脂肪滴 / オートファジー / 酵母 / メタノール資化性 |
研究実績の概要 |
真核生物の中性脂質の大半を貯蔵するオルガネラ、脂肪滴の量は合成と分解の両方向から制御されている。本研究では、酵母の生育条件に応じた脂肪滴の量制御機構のうち、特にオートファジーによる脂肪滴分解機構であるリポファジーの誘導および調節の分子メカニズムを明らかにする。研究対象として、モデル酵母Saccharomyces cerevisiaeと、バイオディーゼル生産で生じる副産物であるグリセロールとメタノールを共に資化する酵母Komagataella phaffii (Pichia pastoris) とを並行して用い、得られた知見をバイオディーゼル生産時の副産物の有効利用につなげることを目指す。 本年度は、S. cerevisiaeリポファジー関連タンパク質Osw5の新たな生理機能を見出した。具体的には、本タンパク質は定常期にある酵母において、ステロール合成酵素のオートファジーによる分解に関与することを見出した。このステロール合成酵素は小胞体上で機能するが、見出した分解機構はこれまでに報告されている、オートファジーによる小胞体分解機構(ER-phagy)とは異なるものであった。 酵母K. phaffiiについては、グリセロールとメタノールの混在する培地中で、野生株よりも早くメタノールを消費する変異株を作出した。 作出株においてはメタノール酸化酵素(アルコールオキシダーゼ)の誘導亢進およびペルオキシソーム局在タンパク質Pex11の発現誘導も見出した。作出株において観察されたこれらの酵素・タンパク質誘導は、グルコース培地では見られず、グリセロール存在下またはグルコース枯渇条件で特異的な現象であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S. cerevisiaeリポファジー関連タンパク質Osw5は脂肪滴に特異的局在を示し、リポファジーに機能すると報告はされているが、その機能の分子基盤は全く不明である。本年度の本課題研究からOsw5がステロール合成酵素の分解にも関与することが分かったため、本タンパク質のリポファジーへの関与が、直接的な脂肪滴取り込みの分子機構ではなく、ステロールまたはその代謝物の量変動を通じた間接的な作用である可能性も浮上した。酵母のリポファジーにおいてはこれまでに液胞膜のステロール含量の上昇とそれに伴う脂質ラフト(秩序相)形成が重要であることが分かっており、Osw5が脂質ラフト形成に影響する可能性も考えられる。 酵母K. phaffii においてグリセロール・メタノール共存時にメタノールをより早く消費する株を作出できたことは、実用的な意義が大きい。というのも本酵母は高いグリセロール資化能を持ち、脂肪滴の形で油脂蓄積を行うことができる一方で、グリセロール存在下ではメタノール代謝が抑制されており、バイオディーゼル生産工程で生じる廃液中のメタノールを低減するには、通常はグリセロール濃度の十分な減少を待たなければならないからである。今年度の作出株はより早い段階でのメタノール低減をもたらすため、廃液の安全性を担保するために有用な株となりえる。また、グリセロールによるメタノール代謝抑制の分子メカニズムは不明な点が多く、今回作出した株のゲノム解読等により、分子機構解明につながることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
S. cerevisiae のリポファジー関連タンパク質Osw5については、ステロール合成酵素分解への関与が分かったことを受けて、本タンパク質欠損株のステロールおよびその合成中間体の量を網羅的に測定し野生株と比較する。また本タンパク質とステロール合成酵素との相互作用の有無を調べる。ステロール合成酵素分解に関与する遺伝子について、特にオートファジー関連遺伝子(ATG遺伝子)を中心に遺伝子破壊株を用いて同定する。 リポファジーの誘導条件の中でも、炭素源変換によりもたらされる誘導の分子機構解明を目指す。本条件で誘導されるリポファジーにESCRTタンパク質Vps27が必要であることは既に見出しているが、Vps27がユビキチン鎖結合タンパク質であるため、ユビキチン鎖を形成する酵素群(ユビキチンリガーゼ)の変異株におけるリポファジー誘導の有無を調べる。関与が明らかとなったユビキチンリガーゼについて局在・動態解析を行う。 メタノール資化性酵母K. phaffii については、作出したグリセロール・メタノール共存時メタノール消費促進株の脂肪滴・油脂生産能を野生株と比較する。また、元株に遺伝子組み換えでないK. phaffii株を用い、外来遺伝子導入によらない変異導入法を用いて、同様のメタノール消費促進株を作出する。本法で作出された株は遺伝子組み換え生物ではないため、廃液処理の現場での利用がより容易になると期待される。 K. phaffiiがS. cerevisiae同様のリポファジー機構を持っていると仮定すると、ESCRTタンパク質Vps27欠損株はリポファジーが阻害され結果として油脂蓄積している可能性が考えられる。そこでK. phaffii Vps27欠損株を作成し、その脂肪滴・油脂生産能を野生株と比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ禍で、当初予定していた学会参加のための出張が全てなくなり、旅費の大幅な減少があり、次年度使用額が生じた。
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