脂肪滴は細胞内の中性脂質蓄積の主要な場であり、その合成と分解の制御により量調節されている。本研究は、このような脂肪滴の動態制御のメカニズムを複数の酵母種を対象に研究することで明らかにすることを企図して始められた。 研究の結果、当初の予想とは異なるが興味深い結果が得られた。まず出芽酵母Saccharomyces cerevisiae を対象とした実験から、これまで脂肪滴の分解に寄与することが示唆されていた脂肪滴局在タンパク質Ldoが、ステロール量調節に働くことを見出した。ステロール合成に機能する酵素は小胞体または脂肪滴に局在するものが多いが、Ldoの欠損株では脂肪滴へ局在が傾くこと、ステロールの合成能が低下することを見出した。 メタノール資化性酵母 Komagataella phaffii を対象とした実験では、グリセロール・メタノール同時資化株の選抜に成功した。本酵母は通常グリセロール存在条件ではメタノールを資化できないが、遺伝子ランダム変異を導入することでグリセロール存在下でもメタノール代謝酵素が発現する株を選抜できた。ゲノム解析の結果、この選抜変異株においては2つの転写因子をコードする遺伝子に変異が導入されていることが分かった。本酵母はグリセロールを生育炭素源として脂肪滴(油脂)を顕著に発達させることからグリセロール廃液からの油脂生産に有望であるが、さらにメタノール残存グリセロール廃液からメタノールを除去する働きも賦与できる可能性が示された。
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