研究実績の概要 |
微細藻類 Euglena gracilis は,好気的環境において,余剰の光合成産物をβ-1,3-グルカン (パラミロン)に変換して貯蔵する。パラミロン蓄積量は細胞乾燥重当たり 50% 以上に達する。嫌気環境では,パラミロンを炭素骨格の供給源とした脂肪酸合成が誘導され,ワックスエステル(WE, 細胞乾燥重当たり30% 以上)に変換される。この嫌気的WE合成には,ミトコンドリアのロドキノン(RQ)を介した電子伝達経路と還元的TCA回路を経由する代謝経路が関与する。 これまでに,425 種類の芳香族化合物から構成される独自のケミカルライブラリーをスクリーニングし,キノン骨格を持つ複数の化合物(OATN003,1,8-dihydroxy-10H-anthracen-9-one; OATQ008, 1,4-diaminoanthracene-9,10-dione; ONAQ008, 2-methylnaphthalene-1,4-dioneなど)がユーグレナの著しいWE 蓄積増強作用を持つことを発見した。最も高いWE蓄積増強能を有する化合物の添加では,通常の3 倍量の WE が蓄積した。 これらのキノン類がWE合成能を増強するメカニズムを解明することを目的として研究を進めた。WE合成には,RQを経由するミトコンドリア電子伝達とフマル酸還元酵素の関与が必須であるため,これらのキノン類がミトコンドリアの機能に関わると考え,暗所でのミトコンドリア呼吸活性への影響を調べた。呼吸活性はONAQ008添加で2.5倍に上昇したが,OATN003添加では1.1倍の上昇にとどまった。またOATQ008添加では顕著な影響は認められなかった。この結果は,これらの化合物が異なる作用機作を持つ可能性を示している。今後,単離ミトコンドリアにおいて,キノン類の作用点解明をすすめる。
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