研究実績の概要 |
ユーグレナは,好気環境下で過剰に得られた光合成産物を貯蔵糖質(パラミロン)として蓄積する。嫌気環境下に置かれると,蓄積したパラミロンを加水分解し,ミトコンドリア還元的TCA回路の前駆体となるピルビン酸を生産し,嫌気的ATP合成を可能にする。その反応過程の副産物としてワックスエステル(WE)が蓄積する。その量は細胞乾燥重の30%以上に達する。化学物質添加によるWE蓄積の活性化の可能性を探索し,キノン類化合物がWE蓄積を増強させることを明らかにした。特に顕著な活性を示したOATN003(1,8-dihydroxy-10H-anthracen-9-one),OATQ008(1,4-diaminoanthracene-9,10-dione),ONAQ008(2-methylnaphthalene-1,4-dione)の添加で,それぞれ2.3倍,2.8倍,1.4倍にWE生産が増強された。これらがキノン骨格を有することから,ミトコンドリア内膜の電子伝達経路と葉緑体電子伝達活性への影響を検証した。その結果,呼吸鎖電子伝達活性は,OATN003存在下で1.3倍に上昇したが,他の化合物添加では活性の変化は無かったが, 3種の化合物が顕著なチラコイド膜の電子伝達活性を阻害した。そこで,電子伝達活性を阻害する除草剤(DCMU, pCMB, DBMIB)をユーグレナ生細胞に添加したところ,DBMIB,DCMU添加により,処理濃度依存的に WE 蓄積量が増加した。一方,除草剤とこれらの新規活性化合物の相乗効果は認められなかった。以上の結果をWE産生が嫌気条件下で誘導されることと合わせて考察すると,電子伝達阻害による細胞内の環境変化がWE産生の活性化シグナルとして認識されると考えられる。今後,細胞内ATP濃度変化が脂質代謝と糖代謝のスイッチングに関与する可能性を検証する。
|