研究課題
有鞘細菌は糸状に連なった細胞列を包み込むマイクロチューブ(鞘)を形成する。鞘は多数の細胞の連携によって細胞外で形成される秩序だった微細構造体である。いかなる可溶性高分子が、いかなる変化を受けて凝集し形体を成しえるのかを明らかにすれば、水溶性高分子を素材とする水中での微細造形技術の開発に展開できる。今年度は、昨年度中に活性汚泥より単離した有鞘細菌の分類学的諸性質を調べるとともに全ゲノムを解読した。単離株は鞘形成によって糸状化するため形態学的にはSphaerotilus属(プロテオバクテリア門)の要件を満たすが、糖質及び有機酸の資化能が極端に低い点と微好気環境を好む点において明確に異なった。ゲノムに基づく系統解析でもSphaerotilus属に似て非なる存在であることが判明した。有鞘細菌の新属の可能性を示す学術的に重要な株と考え、菌株保存施設に寄託した。このほか、バクテロイデス門唯一の有鞘細菌であるHaliscomenobacter hydrossisの鞘調製に適した培養条件検討し、ヒアルロン酸利用性を確認した。一方、ゲノムにはヒアルロン酸分解酵素遺伝子がコードされていなかったことから酵素の精製と特徴づけを行い、これまでに類を見ないヒアルロン酸リーゼを見出した。また、鞘調製に適した培養条件を見出した。研究期間全体を通じて得られた成果を列挙する。①Sphaerotilus montanusの鞘が両性多糖による積層造形によって形成されることを明らかにした。②S. montanusの鞘形成高分子の凝集とO-, N-アセチル化状態の関係を明らかにした。③チオペプチドグリカンリアーゼは脱アセチルアミノ糖残基を認識する特異な多糖リアーゼであることを示した。④プロテオバクテリア門に新系統の有鞘細菌株を見出した。⑤H. hydrossisより新規なヒアルロン酸リーゼを見出した。
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Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 87 ページ: 256~266
10.1093/bbb/zbac207