研究課題/領域番号 |
20K05849
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 一馬 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80571281)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 大腸がん / 天然物化学 / コリバクチン / 標的探索 / 片利共生 / プロバイオティクス / 有機合成化学 |
研究実績の概要 |
ヒトの腸内には多くの外来細菌が生息し,細菌ー宿主間や細菌ー細菌間の相互作用によって片利共生関係が成立している.片利共生において様々な代謝産物が腸内細菌により産生される一方,これらの代謝バランスが破綻するとがんや糖尿病,神経変性疾患等の発症につながると考えられている.腸内細菌が天然物・2次代謝産物(「バイオーム分子」と命名)を生産していることは50年以上前から示唆されているにも関わらず,構造や生理活性などその実体は不明な点が多い.本研究では,バイオーム分子として大腸菌が生産するコリバクチンおよび腸管由来放線菌が生産するヒューミマイシン類をその作用機構研究の対象とし,全合成および構造活性相関の解析,ならびに標的タンパク質群の基盤解明を行うことを目的としている. まずコリバクチンおよびヒューミマイシンAの合成に取り掛かった.コリバクチンは,大腸がんの原因物質の一つであり,発がん作用を示す一方,抗炎症効果を併せもつユニークな細菌毒素である.コリバクチンの合成は,合成終盤での水系カップリング反応を企図して,両端の繰り返し構造(ユニットA)および中央のジチアゾール構造(ユニットB)に分けた.今年度は,Boc-L-Alanineを出発物質として,別途合成したシクロプロパンユニットとのカップリングによって7段階でユニットAを大量に得る道筋をつけた. ヒューミマイシン類は,N末端が3-ヒドロキシミリスチル化された,非天然アミノ酸を含むリポヘプタペプチドである.ヒューミマイシン類は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して抗菌活性をもつ.今年度は,ヒューミマイシン類に共通するN末端の脂肪酸部分について3-ヒドロキシミリスチル酸の側鎖をtBu保護した後,マイクロ波型マニュアルペプチド合成機を用いてヒューミマイシンAを得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コリバクチンおよびヒューミマイシンAの合成にそれぞれ着手した.コリバクチンの合成は,合成終盤での水系カップリング反応を企図して,両端の繰り返し構造(ユニットA)および中央のジチアゾール構造(ユニットB)に分けて合成することを計画した.まず,Boc-L-Alanineを出発物質として,メルドラム酸エステルを介してBoc化ラクタムを高収率で得た.さらに,LDAを用いてチオ酢酸エチルで増炭した後,あらかじめ合成した1-アミノシクロプロパンカルボン酸エチルからアミド体とした.最後に再びチオ酢酸エチルをLDAで結合させて,ユニットAの大量合成に向けて道筋をつけた. 一方で,ヒューミマイシン類は,N末端が3-ヒドロキシミリスチル化された,非天然アミノ酸を含むリポヘプタペプチドである.脂肪酸部分は,出発物質を3-ヒドロキシミリスチル酸として,4-ニトロベンジルブロミドでカルボン酸部分を保護した後,イソブテンでエーテル保護した.Pd/C存在下水素添加によって脱保護し,3-ヒドロキシミリスチン酸のtBu保護体を得た.tBu保護体をひとつのアミノ酸と見立てて,マイクロ波型マニュアルペプチド合成機を用いてヒューミマイシンAを得た.以上の理由より,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
コリバクチンのユニットBの合成を行う計画であり,2-メチルチアゾール-4-カルボン酸エチルを出発物質として推進する.ただし,シクロプロパンユニットとのカップリング後の合成化合物の取り扱いには注意を要する可能性がある.構造活性相関を調べるため,得られた化合物の遺伝毒性は,DNAへのアルキル化能をプラスミドpBR322を用いたゲルシフトアッセイで調べる.HeLa細胞を用いた実験では,DNA損傷能をコメット法,アポトーシス能を市販のELISAキットによって多面的に評価する.一方で,DNAアルキル化能への関わりが予想されるシクロプロパン環を含まない部分構造についても同様に調べる.これらの結果を元にして標的探索用プローブを設計する. ヒューミマイシン類については,ヒューミマイシンBおよびその他アナログを同様に合成し,MRSA抗菌活性に関する構造活性相関を調べる計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,当初国際学会(腸内細菌に関するキーストーンシンポジウム)への参加を予定していた.しかしながら,新型コロナウイルス感染症の拡大防止措置のため,オンライン開催になり,旅費の支出が計画より減少したことが理由の一つであるが,配分額の約9割をすでに使用しているため,使用計画に関して特に大きな遅れが生じているとは言えない.このため,次年度使用額(約16万円)については,通常の試薬やカラムなどの消耗費に充てる予定である.
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