研究課題/領域番号 |
20K05850
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
岩崎 崇 鳥取大学, 農学部, 准教授 (30585584)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒスチジン / タンパク質 / ペプチド / 立体構造 / 細胞膜透過 |
研究実績の概要 |
これまでに我々は、ヒスチジンが連続した配列を有する複数のタンパク質(ヒスチジン連続タンパク質)がヒト細胞内に効率的に取り込まれる現象を世界に先駆けて発見した。興味深いことに、ヒスチジン連続タンパク質の一部は、細胞内に取り込まれた後に、疾患に関与する挙動(例:細胞毒性)を示す。すなわち、ヒスチジン連続タンパク質は、細胞膜透過能を有した新たな機能性タンパク質であると考えられる。そこで本研究では、ヒト血中に含まれる新しいヒスチジン連続タンパク質を探索・同定・機能解析する。これにより、ヒトのヒスチジン連続タンパク質が関与する新たな生命現象の発見に挑戦する。 2021年度における研究では、プロテオミクス解析によりヒト血中に存在する細胞膜透過性ヒスチジン連続タンパク質として、ヒトHistidine rich glycoprotein (HRGP)を同定した。ヒトHRGPの中にはヒスチジンに富むヒスチジンリッチ領域が存在しており、立体構造予測からこのヒスチジンリッチ領域はタンパク質表面に露出していることが予測されたため、ヒトHRGPは細胞膜透過性ヒスチジンリッチタンパク質である可能性が示唆された。そこで、ヒト血清からHRGPを精製し、フローサイトメーターを用いて細胞膜透過を検証したところ、予想通りにHRGPはヒト線維肉腫細胞HT1080細胞に対して細胞膜透過を示した。さらに、種々の金属イオン存在下におけるヒトHRGPの細胞膜透過を調べたところ、亜鉛イオン存在下で特異的にヒトHRGPの細胞膜透過が促進された。先行研究より、ヒトHRGPは亜鉛イオンと結合することが報告されていることから、ヒトHRGPは亜鉛イオンと結合して細胞膜透過をすることで、亜鉛イオン輸送キャリアーとして機能している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、2021年度中に「(1) 細胞膜透過性ヒスチジン連続タンパク質の候補同定」を完了し、2022年度にかけて「(2) 細胞膜透過性ヒスチジン連続タンパク質の機能解析」を実施する予定であった。しかし、2021年度中に(2)についてもある程度完了した。 それぞれが計画よりも若干早めに進展していることから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、ヒトHRGPが細胞膜透過を示すこと、さらに亜鉛イオンを細胞内へ輸送している可能性が示唆された。そこで2022度はヒトHRGPの亜鉛イオン輸送キャリアーとしての機能解析を進める。具体的には、(1)亜鉛イオンとヒトHRGPの結合の定量解析、(2)亜鉛イオン存在下におけるヒトHRGPの構造変化の解析、(3)亜鉛イオンとヒトHRGPの共存在下におけるヒト細胞内の亜鉛イオン濃度の定量解析、(4)同条件下におけるヒト細胞内の遺伝子発現変動解析(RNA-Seq解析)、を計画している。これら一連の解析を通じて、ヒトHRGPが細胞膜透過をする生物学的意義を解明するとともに、ヒトHRGPが関与する新たな生命現象の解明に挑む。
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次年度使用額が生じた理由 |
育児休業の取得に伴い、6カ月(令和3年8月10日~令和4年2月10日)の研究中断期間が発生したため、次年度使用額が発生した。また、次年度使用額については、2022年度の研究計画{(1)亜鉛イオンとヒトHRGPの結合の定量解析、(2)亜鉛イオン存在下におけるヒトHRGPの構造変化の解析、(3)亜鉛イオンとヒトHRGPの共存在下におけるヒト細胞内の亜鉛イオン濃度の定量解析、(4)同条件下におけるヒト細胞内の遺伝子発現変動解析}においてすべて使用する計画である。
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