研究課題/領域番号 |
20K05851
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
国吉 久人 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 准教授 (60335643)
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研究分担者 |
荒川 賢治 広島大学, 統合生命科学研究科(先), 准教授 (80346527)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミズクラゲ / 変態 / 生理活性物質 / RNA-seq解析 |
研究実績の概要 |
本申請研究の目的は、ミズクラゲにおけるポリプ(固着性の幼生)からクラゲ(遊泳性の成体)への変態過程を制御する内在性の細胞間シグナル分子群を明らかにすることである。具体的には、以下の3つのstepで実験を進める。 Step 1. 放線菌・糸状菌の菌株ライブラリーを探索源として、様々な変態調節活性を示す物質をスクリーニングし、精製・単離・構造決定する。 Step 2. Step 1で得られた変態調節物質の投与群とコントロール群について次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を行い、投与によって発現変動する遺伝子群を同定する。 Step 3. Step 2で得られた変態関連遺伝子群について発現解析と機能解析を行い、変態制御に関わる細胞間シグナル分子群を明らかにする。 現在までにStep 1の「変態調節物質のスクリーニングと同定」に着手し、広島大学・微生物遺伝資源保存室(HUT)の放線菌ライブラリー約100株中、培養液中に分節形成阻害活性を示す菌株を複数見出した。そのうち、最も強い活性を示した6047株について大量培養を行い、活性物質の精製を試みた。培養液4Lを出発材料とし、酢酸エチル抽出、Sephadex LH-20ゲルろ過クロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2回)、逆相系高速液体クロマトグラフィーを経て、活性物質の単離に成功した。精製過程で活性画分は2つに分かれ、それぞれを6047A、6047Bと呼んだ。それぞれの単離物質について、NMR、質量分析による構造解析を行った。その結果、6047Aは既知物質であり、合成標品を用いた活性の確認も完了している。一方、6047Bは、単離量が少なかったために構造決定には至らなかったものの、質量分析やUV-VIS吸収スペクトルの結果から6047Aとは全く異なる物質であり、6047Aよりも低濃度で活性を示すことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大防止のために大学内への入構規制などがあり、実験に用いるミズクラゲのポリプ・ストロビラの飼育規模を制限せざるを得なかった。そのため、バイオアッセイ用のポリプ・ストロビラが不足傾向にあり、放線菌由来の活性物質の精製を精力的に進めることができなかった。 そのような状況下ではあったが、最も強い活性を示した6047株1つに絞り、活性物質の精製を試み、単離に成功した。構造解析の結果、既知物質であったものの、合成標品が入手可能であることから、Step 2の「RNA-seq解析による変態関連遺伝子群の探索」に進めることが可能になった。 一方、この6047株はさらに強力な活性物質を生産しており、その物質の構造決定も迅速に進める必要がある。また、6047株以外にも興味深い生物活性を示した菌株が得られているので、これらの活性物質の精製にも早急に着手したい。
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今後の研究の推進方策 |
【Step 1:変態調節物質のスクリーニングと同定】6047Aの類縁物質を用いて構造活性相関を調べるとともに、2020年度に構造決定まで至らなかった6047Bを再度大量精製して十分量を単離し、構造決定を達成したい。また、6047株以外の菌株についても、活性物質の精製・構造決定を進めていく。 【Step 2:RNA-seq解析による変態関連遺伝子群の探索】2020年度で同定に成功した分節形成阻害物質6047Aの合成標品を用いて、6047A投与群とコントロール群のストロビラからRNAを抽出し、次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を行う。得られた結果についてバイオインフォマティクス解析を実施し、6047A投与によって発現変動する遺伝子群を同定する。それらの遺伝子群の推定アミノ酸配列についてシグナルペプチドの有無を検証し、分泌タンパク質遺伝子を選別して「細胞間シグナル分子候補遺伝子」とする。 【Step 3:変態関連遺伝子群の発現解析と機能解析】Step 2で細胞間シグナル分子候補遺伝子群が得られれば、それらについて順次in situ hybridizationによる発現解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大防止のために大学内への入構規制などがあり、実験に携わる学生の研究室への入室と研究活動が大きく制限された。そのため、当初予定していた実験を十分に実施できなかった。 例えば、実験に用いるミズクラゲのポリプ・ストロビラの飼育規模を縮小せざるを得ず、飼育用器具類・飼料の新規購入の必要が生じなかった。飼育規模縮小の結果、バイオアッセイ用のポリプ・ストロビラが不足傾向にあり、放線菌由来の活性物質の精製を十分に進めることができず、6047株1つに絞ることにした。このため、精製に必要な試薬類・消耗品類や構造解析の機器使用量が予定よりも少額となった。2021年度では2020年度に実施できなかった実験を行う予定であるので、これらの必要経費の余剰分を2021年度に繰り越した。 2021年度では、バイオアッセイ用、RNA-seq解析用のポリプ・ストロビラが大量に必要となるので、その飼育用器具類・飼料の経費として使用する予定である。それに加えて、活性物質の精製やin situ hybridizationも行うので、実験試薬類・消耗品類や構造解析の機器使用量の経費として使用する。また、年度末に参加予定の日本農芸化学会全国大会が対面式で開催される場合を想定して、交通費・宿泊費として使用する予定である。
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