最終年度において、植物に与えた酸化ストレスはこれまでのパラコートによるものに加えて、硫酸銅水溶液および塩害ストレスを検討した。硫酸銅水溶液は葉面処理を、また塩害ストレスは栽培土壌に給水時に与えることで行った。いずれの処理も枯死に至らない程度の濃度から、数日で枯死に至る濃度までの条件で試験した。 その結果、枯死に至る濃度では、葉の黄化や植物体全体の萎凋がみられ、そのような症状が見られるよりも早い時期に脂質酸化物であるオキシリピン(9ーHODE)が最大値を示した。このときの条件下では核酸酸化物8-OxodGは徐々に増え続けた。また、枯死に至らない濃度処理においても、これらの成分の内生量は処理後、数日で最大値を示したが、その後、減少し7日後には処理前とほぼ同等の量を示した。この結果は、植物のストレスの蓄積を回避する機能の発現およびその機能を上回るカタストロフィックなレベルのストレス受容の様子を示していると考えられる。核酸の酸化物およびオキシリピンの内生量を追跡することで、ストレスを受容した植物体が枯死に至るのか、回復するのかの予測診断をすることができると考えられた。 本研究においては、核酸、脂肪酸酸化物(オキシリピン類)、タンパク質の酸化物に注目することでその酸化ストレスの局在情報を得ることを目的とした。与えたストレスはいずれも核酸に酸化物が生じたことから、核内における酸化ストレスはどのストレス実験においても生じているものと考えられた。 抗酸化物質として注目したスコポレチンの生合成能欠損株に置いてはオキシリピン蓄積量が野生株に比べて優位に高いことを見出した。これは抗酸化物質が植物体内で酸化ストレスに何らかの機能を有していることを示している。 本研究の結果、生体成分の酸化物を追跡、定量することで植物体のストレス診断が可能であること、また植物の「死」にいたる現象の記述が可能になったと考えられる。
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