研究課題/領域番号 |
20K05864
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
上野 琴巳 鳥取大学, 農学部, 講師 (40582028)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 根寄生雑草 / 担子菌類抽出物 / 種子発芽阻害 / 幼根伸長阻害 |
研究実績の概要 |
世界の農業において、生産性を低下させる要因の一つに、ハマウツボ科植物に代表される根寄生雑草による寄生被害が挙げられる。根寄生雑草は土壌中で宿主植物の根に寄生するため、種子を除去するなどの物理的な除去は困難である。そこで本研究では根寄生雑草が宿主に寄生する直前、寄生のために伸長させる幼根を化合物によって阻害する方法を開発することにした。今年度は、新奇な化合物を生合成している可能性が高い担子菌類(きのこ)の培養抽出物ライブラリから、幼根伸長阻害活性を示すサンプルを探索した。様々な属に渡る担子菌類の培養菌体メタノール抽出物96種類および培養後の培地の酢酸エチル抽出物97種類をヤセウツボ種子に投与し、種子の発芽率や発芽後の幼根の長さを測定した。担子菌類の抽出物単独で種子発芽を誘導するサンプルは発見されなかったことから、担子菌類が根寄生雑草種子発芽刺激活性物質を生合成している可能性は低いと判断した。一方、発芽するように処理した種子に対しては、培養菌体抽出物では効果的な種子発芽阻害活性は見られなかったものの、培地の抽出物では 0.1 mg/mL で種子発芽を完全に阻害するサンプルが11種見つかった。幼根伸長を強く阻害する作用が結果的に種子発芽の阻害として現れている可能性もあるため、現在は 0.03 もしくは 0.01 mg/mL で種子の処理をするなどして詳細な解析を行っている。抽出物の中には、発芽のみを阻害するもの(低濃度では幼根伸長を阻害しない)と低濃度でも幼根伸長阻害活性を示すものがあることから、種子を完全に死滅させるためにも、幼根伸長阻害活性を示すサンプルに今後は注視していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
根寄生雑草ヤセウツボの種子発芽率が劇的に低下したため、担子菌類抽出サンプルのスクリーニング試験系が安定せず、確実な結果が得られにくい状況になっている。それ以前から種子の発芽率の低下は見られていたため種子の採集を計画していたが、感染症拡大防止のための移動制限で採集できなかった。そこで試験回数や試験に携わる学生の数を増やしてスクリーニングを早期に終えるよう努力したが、今年度中に担子菌類を選抜するに至らなかった。しかし最近になって対象とする担子菌類を決定する段階に入ってきたことから、次年度には担子菌類の大量培養をスタートして、化合物の単離をすすめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ヤセウツボの幼根伸長阻害活性を示す有機化合物を同定するため、対象とする担子菌類を4、5種類にまで限定する。そのため、早急に低濃度での生物試験を完了させると同時に、文献検索を行い、過去に化合物の報告がないかを確認する。新奇の化合物を得るためには、二次代謝産物に関する報告がない担子菌類が培養の候補となるが、既知化合物であっても植物に対する機能が判明していない化合物であれば、解析の対象とする。選抜した担子菌類は液体培地 5 L で培養し、菌体をろ別後、培地を酢酸エチルで抽出し、有機層画分をシリカゲルカラムおよびODSカラムを用いて分画する。生物試験を行いながら活性成分を追跡し、単一化合物を得た後、分光分析に供して構造決定する。 本年度の研究の進捗が予定通りではなかった原因である、ヤセウツボ種子の発芽率の低下に関しては、種子を新たに採集することで改善を図る予定ではあるが、採集できない恐れもあるため、近縁種であるハマウツボを用いた生物試験系を確立し、化合物の追跡に利用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症拡大防止のために国内学会がオンライン開催となっただけでなくシステムのセキュリティーが懸念されたため、学会参加を見送った。そのため旅費として使用することがなかった。また、担子菌類の選抜が完了しなかったため、培養のための試薬を購入することがなかった。そして、化合物の精製時に必要となるエバポレーターの購入を計画していたが、使用するまでに至らなかったことと、他研究室から譲り受けられる可能性が浮上したため、購入を見送った。その一方で、分析に必須となるHPLCのポンプが型落ちのために修理できなくなったことから、次年度ではHPLCのポンプ1台を夏頃、購入する計画を立てている。また、次年度からは担子菌類の培養と化合物の精製が始まるため、培地成分や有機溶媒を購入する予定である。
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