研究課題/領域番号 |
20K05864
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
上野 琴巳 鳥取大学, 農学部, 講師 (40582028)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 根寄生雑草 / 担子菌類抽出物 / 幼根伸長阻害 |
研究実績の概要 |
世界の農業生産において、生産性が低下してしまう原因のひとつに、ハマウツボ科に属する根寄生雑草による被害が挙げられる。ストライガやオロバンキとして知られる根寄生雑草は、土壌中で宿主となる植物の根に寄生して養水分を収奪して育つため、逆に宿主となった植物個体は生育が著しく阻害される。また根寄生雑草の種子は0.3 mm程度と小さく、土壌粒子と分別することが不可能であるため、一度種子に汚染された土壌では、長期間にわたって農作物がまともに育てられなくなる。そこで本研究では、作物を根寄生雑草の被害から守るために、寄生プロセスを化合物によって阻害する方法を開発することにした。発芽した根寄生雑草は幼根を伸長させ、宿主の根に接触すると吸器という器官を形成する。その過程に注目し、根に接触する前、すなわち幼根の伸長を化合物で阻害し、吸器形成を妨げることにした。昨年度までの研究において、担子菌類由来の幼根伸長阻害物質を得るため、様々な種の担子菌類培養抽出物ライブラリーをスクリーニングに供し、候補化合物を生産していると考えられる担子菌類を5種選抜した。今年度はその中の4種を大量培養し、幼根伸長阻害活性を有する化合物の単離精製を行った。その結果、3種の担子菌類が生産する幼根伸長阻害物質は既知化合物であったが、2種から単離された化合物は動物細胞への効果が報告されていた程度で、植物に対する活性は報告されていない化合物であった。また1種が生産する幼根伸長阻害物質は新規化合物であった。新規化合物に関しては、構造が特異的であり、類似化合物も見つかっていないことから、慎重に構造解析を進めている。また既知化合物に関しても、絶対配置を決定するために有機合成を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、研究の進捗がやや遅れていた理由のひとつに、試験に用いるヤセウツボの種子の発芽率が劇的に低下したことが挙げられたが、今年度は種子を採集することができ、種子の発芽率が改善したため、試験が安定的に行われるようになった。それに伴い、化合物の精製も順調に進み、既知化合物だけでなく新規化合物も得ることができた。また、化合物単離の対象となる担子菌類を複数種選抜することで、既知であってもそれぞれ異なる構造を有した活性物質を複数得ることができた。新規化合物は構造が複雑であるため、構造改変のための有機合成が困難であると予想されるが、今回単離した複数の既知化合物は構造が単純であり、有機合成も可能であることから、単離した化合物だけでなく類縁体も合成し、構造活性相関を明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
新規化合物に関しては、全合成による構造決定が非常に困難であることから、部分構造の合成ならびに文献のスペクトルデータを参考に推定構造を提出する。また、強い幼根伸長阻害活性を示さないものの、HPLC分析において単離してきた化合物と同様の挙動を示す化合物が同種の菌体培養抽出物から検出されているため、それらも単離し、構造を確認し、類縁体であれば構造活性相関研究を行う予定である。一方、既知化合物に関しては、類縁体を合成して構造活性相関を確認していくとともに、構造を単純化した幼根伸長阻害物質のリード化合物を開発する。構造活性相関が明らかになった時点で、これらの結果を学会や国際的な学術雑誌で発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度同様、多くの国内学会がオンラインで開催されたが、情報漏洩などセキュリティーの問題は未だ解決に至っていないと判断したため、学会参加は行わなかった。またヤセウツボの種子を県内で採取することができたため、旅費を使用することがなかった。分析に必須となるHPLCの送液ポンプを購入したことで、精製が滞りなく行われたが、依然、ポンプや検出器が経年劣化のために使用が難しくなってきている。次年度は単離した化合物および類縁体の合成がメインとなるが、培養抽出物には他の活性物質も含まれていることから、引き続き菌体の培養も行っていく。そのため合成試薬だけでなく、培養に必要な試薬やガラス器具を引き続き購入する。また研究の効率化を図るため、分析機器の買い替えも検討していく。
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