世界の食糧危機が問題となっている昨今、ハマウツボ科植物による寄生被害が農作物の生産を低下させる原因のひとつとなっている。ストライガ属やオロバンキ属植物に代表される根寄生雑草は、人間の目では確認できない地下部で宿主に寄生するため物理的な方法で取り除くことは難しく、化学的な手法で防御するのが一番と考えられている。そこで本研究課題では、ハマウツボ科植物に特異的に作用する幼根伸長阻害物質の探索と同定を行った。ユニークな構造の物質を得るために、多様な構造の二次代謝産物を生合成している担子菌類の培養抽出物ライブラリをスクリーニングし、候補となる菌株を5つ選抜した。その中の3株は既知ではあったものの、それぞれ異なった幼根伸長阻害物質を生合成していた。いずれも分子量が300以下と小さく、六員環をベースとした化合物であったことから、これらの共通構造を母核とした阻害剤のリード化合物合成に着手することができた。一方、選抜したPhanerochaete calotrichaから、新規化合物としてphanerolactoneとその類縁体を計9つ単離同定した。この新規化合物は、ヤセウツボの幼根伸長のみを阻害し、宿主であるアカクローバーの生長にはほとんど影響を与えなかったことから、根寄生雑草特異的な生育阻害剤のリード化合物になり得ると考えられた。更に幼根伸長阻害活性を指標に、土壌から単離した放線菌の抽出物から、ジケトピペラジンのcyclo(Trp-Pro)を活性物質として単離した。本研究課題で得られた化合物の圃場での効果は確認できていないが、一部の化合物はポット試験で良好な結果が得られたことから、化合物による幼根伸長阻害を介して根寄生雑草の被害を軽減できる可能性が見出された。
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